ウットリさん

 厳しいこのご時世、働き盛りの人たちがリストラや派遣切りなどで、大変な状況だというのは見聞きしていたが、30代の弟も例外ではなく、昨年秋に検体回収の仕事をリストラされた。理由は会社の業績悪化だが、独身で実家住まいというプロフィールも、リストラ対象として都合がよかったのだろう。

 住む場所、食べるものは困らないにしても、当然のごとく弟はすぐに就活スタート。しかしながら、どこの会社も募集をかければ、応募が殺到し、面接はもとより、書類のエントリーすらできないような状況。年末が近づくにつれ、このまま無職で年を越すことになるのか……と弟だけでなく、母も父も私も絶望的な気持ちになっていた。

 ある日のことだ。「ダブルワークとして始めたけれど、うちの病院って時給はどうなんだろう」と疑問がわき、何となく新聞チラシのアルバイト情報を眺めていた私。たまたま掲載されていた障がい者福祉に関連する募集記事が目にとまった。

 ふーん、老人介護じゃないの?
 民間会社じゃなくて、公益法人なんだ。
 実績もあって、安定しているし。
 仕事は地味だけどやりがいがありそう。
 弟に意外と合うんじゃないの?

 勝ち気な姉とは違い、弟はとても優しくて、声を荒げたことは1度もない。温厚な性格でコツコツ型、でも競争力や欲はいまひとつ。営業マンに向いているタイプではないのに、営業職ばかり探している。そんなわけで、まったく福祉に興味のなかった弟を説得し、先方に問い合わせをさせてみた。結果……、すぐに面接→採用となり、無事に年を越すことができたのである。

 何よりも良かったのは、まったく志望していなかったにも関わらず、仕事を始めたとたん、楽しくて充実しているとのこと。資格取得など、一生の仕事として新たな目標を見つけたようだ。

 弟から採用されたという連絡をもらい、つい夫と娘に「ほらほら、やっぱり弟にぴったりの仕事だった! 私と違って優しいし、根気があるもの」とつぶやく私。

 それを聞き、娘がひとこと。

「そうだね。●●くん、ウットリさんだもんね!」

 ……?

 それをいうなら【ウットリさん】じゃなくて【おっとりさん】ですけど。
 
 

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結婚詐欺ではありません

 今日は、 介護のお手伝いをしている80歳のおじいさまのお宅 診察のお手伝いをしているとある医療機関へうかがいました。途中、重篤な症状のおじいさまがいらっしゃり、その方のお世話に掛かり切りでした。血まみれになってしまうほど、大変だったのです。

 おとといはひと晩中、総合情報誌の記事広告を編集していました。だれでも知っている大手旅客鉄道会社の雑誌で、読者ターゲットは経営者層。今回の記事広告も、複数の有名企業トップの方々が対談をする、という贅沢な企画です。

 明日はとある会社の本社ビルで、対談の様子が撮影されます。もちろん、わたくしもご挨拶かたがた取材に参ります。いまからとても楽しみです。

 でも、ここのところ、疲れているせいか、お口の横にポツリと吹き出物が出てしまいました。口唇ヘルペスみたいです。やはり、寝不足は美容の大敵ですね。 叶姉妹御用達のスキンケア化粧品 ヘルペス専用のお薬でお手入れをしなくちゃ。みなさんもお風邪など、ひかないよう、気をつけてくださいね。ごきげんよう。

※コメントのお返事が間に合わなくてごめんなさい。

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イケメンモミモミ

 数ヶ月前から左足の内くるぶしに痛みがあり、ずっと我慢をしていたのだが、ボッテリと腫れてきた上に痛みがひどくなる一方なので、近所の整形外科を受診した。

 診断結果は三角靭帯の炎症。左足を何度も捻挫をして靭帯がユルユルになっていたのと、それが原因でアーチが崩れ、扁平足になってしまっていたことなどが炎症を引き起こしたらしい。

 治療は痛み止めを飲んで、経皮鎮痛消炎薬を貼り、リハビリを受けるぐらいしかない。痛みがひどいときはステロイド注射をブスリ。まあ、気長に炎症が治まるのを待つしかないのだ。

 そんなわけで仕事の合間を見てリハビリに通っているのだが、イケメンの理学療法士がモミモミしてくるのがうれしい。さわやかな笑顔の彼が正面に座り、私の左足を抱えて「どうですか? 痛くありませんか?」などと聞くのだから、思わず「あなたの好きにして!」と叫びたくなる。ふいに私の左足が彼の股間に触れたときは「オプション代が加算された」と思ったが、大丈夫だった。

 今朝も一番乗りで診察&リハビリを受けてきた。痛みと腫れが引かず、強力なステロイド注射を打たれた私は、注射の痛みでヨロヨロとしながらリハビリ室へと向かった。

 温熱療法と低周波治療を受け、いよいよ待望のモミモミタイム! イケメン君、早く早く〜!

 ……なんと今日の担当はイケメン君ではなく、たくましさ溢れるマツコ・デラックスだった。ヘタをするとひねり殺されそうな感じ。失望感を顔に出さないようにしつつ、イスに座って足を投げ出す。

「どんなときに痛みますか?」

 マツコはふくよかな太ももに、私の左足を乗せ、丁寧にマッサージを始める。ふくらはぎからカカトまで、ときに強く、ときに優しくモミモミモミモミ……。最後は私の足の指に自分の指をからめて、引っ張り上げた。うひー! 効く〜! 気持ちいい!

 マツコのテクに骨抜きにされ、ヨロヨロと帰宅する私であった。終わり。

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白衣

 前回、書いたダブルワークの件、何を隠そう医療機関でのアルバイトなんである。

別に医療機関にこだわっていたわけではなく、近場&何とか本業と両立できそうなシフト……を目安に、いくつかの募集先(すべて別業種)に履歴書を持参し、3軒目で決まった場所だ。1回行くたびに5回ぐらい「やっぱり辞めよう」「辞めるっていうぞ」と思いながら、結局続けている。とにかく苦痛なのがマスクと白衣。もう、アチいのなんのって。

 割烹着みたいな白衣を着ているわけで、これがまた医療機関向けの抗菌素材で、生地の目がパンパンに詰まっていて通気性最悪。加えて感染対策にマスク必須だもの。こっちは特定検診で「メタボ予備軍」に丸付けされた身だよ。暑いのが死ぬほど嫌いだってのに、ムレまくり。白衣着てハアハアいっちゃって、どこのイメクラだっつーの。熟女倶楽部か。

 あまりに見苦しかったのか、見かねたのかは知らないが、先生とスタッフのみなさんが新しい白衣を調達してくれた。今回のは涼しげなエプロンタイプ。いいねえ。さっそく袖を通してみると、サワヤカな風が肩や背中を通り抜ける。うーん、いい! いい!

 しかし、だ。エプロンの後ろにある、ボタン付きのベルトを留めようとしたが、あと一歩のところで届かない。は、腹の肉が……。

「フリーサイズなんだけどねえ」と先輩スタッフの悲しげな声。

 いえいえ、いいんです。腹を引っ込めれば、な……なん、とか……、うっ!

 そっと目をそらす先生……。

 か……、拡張ベルト、ないでしょうか……。ない、ですよね……。やせます。ハイ。

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ダブルワーカー

 新規事業のネーミングだとか、商品パンフやコーポレートサイトのコピー一式だとか、原稿作りに没頭する毎日。しかしながら、ちょっと前まではどこの会社もプロジェクトの延期・保留・縮小・凍結ばかりで、嫌でも不況を実感せざるを得ない状況が続いていた。

 何だかこの業界ダメじゃん……と不安になり、加えて私ももう42歳。ああ、いつまでがんばれるのかしら……と心配になり、何を血迷ったのかアルバイトを探し始めた。

 その結果、早々にバイトは決まったものの、同時に本業の受注がドッカリ……。バイト先にあてにされ、辞めますともいえず、徹夜をして原稿を書き、そのままバイトへという生活を1カ月続けている。

 フリーのライターや編集者の中には、派遣で編集や校正の仕事をしていたり、アルバイトで食いつないでいる人も多く、私の友人にもそうしたダブルワーカーがたくさんいる。仕事の話で電話をしても、なぜか平日の日中は捕まりにくいと思っていたところ、実は……なんてケースもある。

 フリーになって16年、ライターとして駆け出しのころに水商売でボトルキラーという名の売れっ子(笑)になって以来、ずっと本業ヒトスジでやってこられたのは奇跡に近いかもしれん。

 ん十万円分のコピーを作りながら、時給900円のアルバイトを続けるのは何ともいえない気分になるけれど、ん十万円分の仕事が明日、来月、来年と来る保障はない。娘のために何か買おう、おこづかい稼ぎだと割り切って、しばらく続ける予定だが、いつまで持つのやら……。

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商談はお見合いのごとし

 フリーランス(個人事業主)の醍醐味といえば、仕事を選べること。こんなご時世なんだから、仕事を頂けるだけでありがたい……という気持ちもあるが、何でもいいわけじゃない。

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(初めて電話をしてきた依頼人A)

「あの〜、有限会社○○の○○ですけど。撮影を頼みたいんだけど」

「ありがとうございます。あいにくカメラマンの●●は撮影で外出しております。本日は携帯が繋がりにくい環境のため、連絡が取れ次第、お電話をさせていただく形になります。たぶん夕方以降になってしまうため、よろしければ撮影内容やお日にちなどを承りますが……」

「え? 仕事の話だよ、仕事の話」

「はい。わたくし、スタジオ●●の●●と申します。●●とは夫婦で一緒に仕事をしていますので、ご依頼のお話やスケジュール確認などを承っております」

「仕事の話だよ、本人と話したほうが早いでしょう?」

「●●と連絡がつくのが、夕方以降になってしまいますが、よろしいですか?」

「あ、そう。別にオタクじゃなくてもいいんだよ」

「いかがなさいますか?」

「カメラマンなんて、他にもいくらでもいるんだよ!」

「そうですか。それではどうぞ他でご依頼ください」

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(初めて電話をしてきた依頼人B)

「株式会社○○の○○と申します。突然、お電話してすみません! 急ぎの案件で申し訳ないのですが、ぜひ撮影をお願いしたいと思いまして」

「ありがとうございます。あいにくカメラマンの●●は撮影で外出しております。わたくし、スタジオ●●の●●と申します。●●とは夫婦で一緒に仕事をしていますので、よろしければご依頼のお話やスケジュール確認などを承りますが……」

「実はこういう案件なんですけど、金額やスケジュールが合うかどうか……。こんな感じだとおいくらぐらいですか?」

「難易度や使用目的、お取り引きの状況などにもよるので、一概に金額が決まっているわけではないんです。いくらいくらでやってくれないかとお声掛けいただく場合もあり、お打ち合わせしながら金額を決めさせていただいているのですが……」

「急な話で申し訳ないのですが、一両日中にぜひお会いして詳しいお話がしたいのですが」

「かしこまりました。明日でしたら日中、お伺いできます。あさっては何時〜何時でしたら都合がつくきます。カメラマンの●●とわたくしの2名でお伺いさせていただきます」

「じゃあ、明日の1時にお願いします。どうぞよろしくお願いいたします」

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依頼人Bとはすぐさま顔を合わせ、そのまま商談を進め、撮影とコピーライティングの発注を頂いた。私も夫もわりとこだわりの強いタイプで、「一緒に仕事をしたい相手かどうか」を重要視している。

実際に会って「この人とぜひ仕事がしたい」と感じれば、赤字覚悟で仕事を引き受けることもあるし、クライアント自身も同じように考えている人だと、トントン拍子に話が進む。

このご時世、仕事を頂けるのはとってもありがたい。でも、「別にオタクじゃなくてもいいんだけど」などというような相手とは、どんなに札束を積まれてもこっちから願い下げだ。

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イカトング

 なんだかイカリングとかムシキングみたいなタイトルだが、間違いではない。イカトングである。

 今朝、98円の卵目当てに朝っぱらから近所のスーパーへ出かけた。無事、卵をゲットし、ほかに家計に優しい特売品はないかと売り場を見回していたところ、大盛りになったジジババの群れを発見した。

 ジジババの群れに特売品アリ。

 スーパーの掟ともいえる、この法則を胸に秘め、ジジババ軍団をかき分けて進むと、そこには「スルメイカ1杯68円」の文字が……。もともとスルメイカはわりと手頃な値段で売られているし、今回のは型が若干小さめ。目の色を変えて買うほどでもねーな、と思いつつも、ジジババ軍団の興奮っぷりにつられ、ついつい群れの中心に入り込んでしまった。

 しゃーない、2〜3杯買ってイカ大根でもすっか……。

 いざ、手を伸ばしてみるも、ジジババの群れが壁のようになっていて、スルメイカまで届かない。なんでこんなに混んでるんだよ、たかがイカじゃないか。

 よくよく見るとジジババたちは、カッチカチに凍ったスルメイカをご丁寧にトングでつまみ、より大きいブツを狙って選り好みをしている。しかも、トングから凍ったイカが何度も何度も転げ落ち、いつまでたってもビニールに入れられないのだ。

 うおおおおっ、邪魔だ、邪魔! トングごときがイカを捕まえられるわけがなかろう。私は売り場のビニールを引きちぎり、手を突っ込む。手袋状のビニールをまとった右手は、ジジババの群れをかき分け、ワシッとイカをつかんだ。

 わはははは! 見ろ! この技を! 5秒でスルメイカが手中に入ったぞ! わははは!

 私は右手を高々と上げ、獲物を天にかざした。その姿はまさに狩人。

 意気揚々で売り場を離れたそのとき、何やら違和感を感じた。お、重い。重すぎる……。カゴの中に放り込まれた獲物を見ると、なんとカッチカチのイカが6杯もくっついて、ひと固まりになっていたのだ! まるで巨大イカのように!

 いまさら、売り場に戻って返品するわけにもいかず、スルメイカ6杯をご購入。トングでこねくりまわしていりゃあ、こんなに買うこともなかったろうに。イカトングの罠。

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