9年目の使い初め

 先日のこと。雑誌の撮影で鍛冶屋さんへ出かけた夫が、おみやげを手に帰宅した。

我が家は夫婦揃ってフリーランスなので、お中元やお歳暮というものにはあまり縁がないが、取材先の方から「これ、よかったら」とおみやげを頂くことが多い。しぼりたてのおいしい牛乳だったり、名産品のおそばだったり、ときには箱いっぱいの野菜を抱えて帰ることも……。

 夫が鍛冶屋さんから頂いてきたのは、それはそれは美しい、手打ち包丁だった。安来(ヤスキ)青紙鋼二号入りのステンレス三徳包丁。切れ味のよさと手入れの楽さをあわせ持つ、使いやすそうな包丁だ。

 私が今、使っているのはステンレスの三徳包丁(関孫六)と、母から譲り受けた鋼の小出刃だけ。ここのところ、包丁の扱いづらさが気になっていて、新しい包丁を……と考えていたところだった。さっそく、頂いた包丁を使おう!と意気込んだものの、その前にひとつ、乗り越えなければならない壁があった。

 9年前、私が結婚したときに父からプレゼントしてもらった、鋼の三徳包丁だ。結婚をするにあたり、ロクな包丁など持ち合わせていなかった私が、父にねだって買ってもらったものだ。伊勢丹で1万2000円もした木屋の包丁で、砥石と一緒に買ってもらったものの、鋼のさびやすさ(ステンレスも鋼の一種なのでさびないわけではないが)を敬遠し、ずっと仕舞い込んでいたのである。

 包丁の研ぎ方ひとつ知らなかった私も、9年間の結婚生活でステンレスの包丁はそこそこ研げるようになった。鍛冶屋さんから頂いた包丁をおろす前に、父からの贈り物を使うべきなのでは? 切れはいいものの、手入れが大変な「鋼の包丁」を使いこなしてこそ、鍛冶屋さんが精魂込めて作った手打ち包丁を使う資格があるのではなかろうか……。

 そんなことを思い、9年間仕舞い込んでいた箱を開け、木屋の包丁を出してみた。ずっしりとした重さ、磨かれた刃はホレボレするほど。包丁を洗い、乾いたふきんで拭く。まずは、友人のお父さんから頂いた桃を切る。うーん、すばらしい! 次は冷やし中華用にキュウリの千切り。うーん、すばらしすぎる! 勢いのまま、錦糸卵もいっちゃうぞ! まさに糸のよう!

 新しい包丁の使い心地を堪能した後は、クレンザーで磨き、乾いたふきんで丁寧に拭き上げる。さあ、明日も美しいコンチェルト(協奏曲)を楽しませてくれ……。

 翌日。私の愛しい包丁は、うっすらプツプツと赤さびが現れていた。あんなに大切に、あんなに丁寧に手入れをしたのに、憎々しいほどプツプツしやがって! 鍛冶屋さんの包丁をおろせる日は、まだ遠い先のことかもしれない……。

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ドンブリ勘定

 丸3カ月間、休みなしで取り組んできたた大プロジェクトが終わり、ホッとしたのもつかの間。打ち寄せてくる波のように、仕事が次々と……。そんななか、1通のメールが。差出人はうちのサイトを見たDTPオペの方からで、内容はとある自治体の入札について、撮影&コピーライティングを見積りが欲しいというものだった。

見積りですか、いいですよ。出しますよ。……で、写真はどんなものが必要ですか? コピーはどんな感じですかね。え? よくわからない? わかっているのはページ数と版型だけ? 著作権買い取りですか。ところで、構成とかは決まっているんですか? え? 決まっていない? ああ、そうですか。写真は全部、撮り下ろしを使用するんですか? え? 前年度の流用もありえるかも? はぁ、そうですか。撮影と取材は何日ぐらい必要そうですかねえ。……1日か2日、5日かかるかも? うーん……。

 自治体の入札って、こんななのね。もう、ドンブリ勘定で出すしかないわけで……。えっと、著作権買い取り+撮影日数を最大で出すと○万円、コピーライティングは校正2回込みで、全部書き下ろしで○万円×○ページで○万円、取材経費は飛行機代と宿泊費を入れて○万円……って、230万円かよ(笑)。

すみませーん! そちらが言う通り、すべて最大&最悪のスケジュール、作業量でお見積りをすると、230万円になっちゃうんですけど〜。え? もっと乗せておけ? そそそ、そんな見積りで入札するんですか? だって、コレにDTP代と印刷代が乗るんですよね。大丈夫ですか? え? いいんですか? ……じゃ、○○○万円で。

 見積りを出した翌日、DTPオペさんから電話がかかってきた。

「あの〜、50万下げていいですか? 営業かけやすいので」
「50万ですね。どうぞどうぞ、いいですよ〜」

 50万円も値引きしたワタシは、その夜「30%引き」シールを貼った肉を買い、88円の卵を買うのに並んだ。ドンブリ勘定とはこのことだ。

 さて、入札の結果は? 推して知るべし。

 

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ご協力ください。

※5月12日に目標額を達成し、募金活動が終了しました。記事を見て、いろいろと声をかけてくださった方、募金をしてくださった方、ご協力ありがとうございました。その後の情報については「みどりちゃんを救う会」サイトでご覧ください。

 先日、定年退職をした保育園の先生お2人の慰労会を開いた。総勢60名以上のOB、OG、保護者が集まり、同窓会みたいな、楽しい雰囲気を過ごした。定年まで、ずっと働き詰めだった先生だから「センセ、退職してまだ2週間ほどだけど、気が抜けちゃったのでは?」と聞いたところ、「そうでもないのよ。結構、忙しいの。実はね、募金活動を手伝っているの」と話してくれたのが、みどりちゃんのことだった。

みどりちゃんは娘と同じ小金井市立の保育園へ通っていた。市立保育園に入園する前は、20人程度の子どもが通う小さな保育室でも一緒。近所に住むおばあちゃんが毎日、お迎えに来ていて、よく立ち話もしていた。

みどりちゃんは昨年10月に拡張性心筋症の診断を受け、現在入院している。もともと、心臓が悪かったのではなく、思いもよらぬ診断だったという。昨年暮れには心不全を起こし、余命半年と診断されている。残された道はアメリカでの心臓移植のみ。

日本全国で子どもの心臓移植についての、募金活動があり、そのこと自体に賛否両論はあるのは知っている。ただ、娘とひとつしか年が変わらない、知り合いの少女が、病気で命を蝕まれていくのを放っておくことができず、ささやかではあるが募金をさせてもらった。

多くの人が見に来てくれる、このブログでぜひ協力を呼びかけたいと思う。すっかり、更新が滞っているけれど、このブログの「あの記事、ワラッタ!100円」という、対価的な感じでもいいので、ぜひ募金をお願いしたい。くわしくは「みどりちゃんを救う会」のホームページにて。

みどりちゃんを救う会 | 心臓移植実現のため、募金のご協力をお願いしています

Midorichan_pdf

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カチンコチンコ

原稿を書かず。本日、2本目のブログ記事へ突入。

 最近、我が家の近辺に不審者が出没している。昨年から連発で、毎週のように警察署からのメールやら、学校からのお知らせプリントが届く。

 どうやら、露出の常習犯らしく、平日の真っ昼間からブラブラ(チンコね)しているらしい。プリントやメールが届くたび、家族の前で読み上げ、娘には「注意しなさい」、夫には「目を光らせろ」と命令していた。

 ある日のこと。今日もプリントが届いた。ここ一週間の間、1日おきぐらいに「不審者出没」の情報があり、犯行の間隔が短くなっているような気がする。

「ちょっと! また、出たんだってよ」と声を荒げ、プリントを読み上げた。

「えっとね。今日の○時ごろ、○○町2丁目付近で、男が児童に下腹部を露出しました。年齢は30〜40代ぐらい、メガネをかけ、黒いジャンパーを着ています。……だってさ」

それを聞いた娘は怖がり、夫は「この野郎、いつか捕まえてやる」と悔しがる。まったく、子どもに何てことをするんだろう。

そして、翌々日。また、不審者出没のプリントが届いた。

「えっと、○○町でまた露出魔だって! ナニナニ? 年齢は40歳ぐらい、メガネ、黒いジャンパー、ジーンズ……、あっ!」

「アッ!」

ここまで読み上げたとき、私と娘が同時に声を上げた。

「パパ!」

 ……そう、露出魔のニンチャク(人相と着衣。警察用語)が、まさに夫だったのだ!

「パパ! こんな寒いんだから、カチンコチンコになっちゃうよ!」

 娘が笑いをこらえながら、夫に呼びかける。「やっばーい! カチンコチンコ」と私。夫はかわいそうなぐらい、オロオロしながら「い、いや……。お、オレじゃない! オレ、その日は昼から撮影に行ってたじゃないか!」と絶叫。平日の昼間、ウロウロしているんだから、なおさらマズいって(笑)。

 我が家のなかで、笑っているうちはいいけれど、ご近所にあらぬ疑いをかけられたら困るので、その日以降、子どもの送り迎えには、かならず保護者のIDをつけるようにした。

 そして、数日後。またまた、学校からのプリント。ナニナニ? 今度は子どもへの声かけだって? 犯人は40歳ぐらい、銀色のクルマに乗って、子どもへ「乗せてあげるよ」と声をかけました……?

「パパッ!」と、叫ぶ娘。

 だって、シルバーのレガシィだもの。疑われるって。

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業務妨害

 数ヶ月にも渡る長丁場の仕事と、毎月のレギュラーと、単発仕事が重なって、アタマがおかしくなっている。日曜日なんか、朝6時まで原稿を書いていて、疲れがマックスになったあたりで、突然狂ったように、版元の編集者にメールを書き始めた。内容はといえば「こんな本、つくらね?」っていう、単なる単行本の企画バナシだけれど、アタマがいっちゃってますからね。尋常じゃないメールなわけなんですよ。

「突然ですけど、○○って本、作りません? あったらアタシ買います。いや、絶対にあるべき。コートとカバンのすべてに一冊ずつ入れとく。ホラャララ(名だたる大手企業)の全面バックアップで、広告もドコドコ入れる。サイズはもちろん、ポケット版で、毎年改訂版を出すことに決定。企画して」

 大手企業のバックアップも何も、企画書すら作らず、こんなメールを送っているんだから、ただの狂人か業務妨害としか思えない。しかも、メールの最後にはコレ。

「このメール、すがすがしい月曜の朝に読むんでしょうね。読んでドンヨリ。貴重なご意見ありがとうございます、社内にて検討させていだたきます、とかっていう返事なら、いらないからね。じゃ」

 最低だな、アタシ。でも、その編集者ったら、日曜に休日出勤していたらしく、速攻で返事を送って来た。

「校了で出勤し、メールを拝見しました。すがすがしい月曜の朝は来ないと思います……」

 さすが、ベテラン編集者。キチガイライターの戯言ぐらいじゃ、ちっとも動じていない。ホレた。

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厄払い

 うへえ。前回のアップから2カ月あまり。外に積もるビトビト雪のごとく、かろうじて「この世」に存在しています、ハイ。

 11月は娘の七五三をやったり、学芸会を観に行ったりしてプライベート的に充実しつつ、前々回の記事で書いた「超有名旅館の撮影」を契約までこじつけたり(競合は11社!)、仕事用のサイトから頂いたメールがきっかけで、新しい取引先とのおつき合いが始まったりと、仕事的には種まきチックな出来事が続いていた。

 12月に入るとまいた種は芽を出し、本格的な育ちへ入る。まさに成長期! 忙しい! 忙しすぎる!と浮かれポンチになっていた私に冷や水を浴びせたのは夫だった。

「撮影に行く途中、前のクルマが急に何かを避けたんだよね〜。何だよと思ったら、事故車があってさ〜。発煙筒を持って警察官がこっちに向かって歩いていたんだよ〜」

 ヒトごとみたいな言い草で始まった話は、想像以上に壮大かつ感動的な展開へ……。

「危ないって思って急ハンドルを切ったらさあ……」

「さぁ?」

「クルクル〜ってスピンして、ガーンドーンって!」

「は?」

「ガーンドーン……」

「ドーン?」

「ドーン……って……」

「なにそれ」

「コンクリートの壁にドーンって……」

「え」

「だから〜、クルクルってスピンして壁にガーンドーンってぶつかって でも自走できたからそのまま撮影に行って とりあえず帰って来たんだけど クルマの前と後ろがガーンドーンって感じで だからそのままだと(ここまで息継ぎなし)」

「修理?」

「修理……」

「修理にいくらかかると思ってんのよ まったくもう ってそれよりも怪我とかはないの?人は?壁は?死なせちゃったんだよオイとか壁の修理もしなくちゃいけないなんてことはないでしょうね どうなのアンタ!(ここまで息継ぎなし)」

 ゼイゼイと息を切らしながら問いただしたところ、いわゆる自損事故で、人をひいたり、壁をぶっ壊したりはしていないらしい。

 結局、クルマの修理は70万近くかかるとのことで、手頃な中古車を探している最中だ。取引先の未払いやクルマの事故など、去年は本当にロクなことがなかった……と思っていたら、なんと夫は厄年(しかも本厄)だったことが判明。正月早々、厄払いにいった次第であった。


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登下校で見えるもの

 入学早々、娘が痴漢の被害に合って以来、登下校の見守りを欠かさない。過保護すぎるのでは? という意見もあるだろうが、6年間続けた保育園の送り迎えから開放され、ホッとした隙をつかれたともいえる犯罪。精神的ダメージは思った以上に大きい。

 そんなわけで、朝は家から校門、夕方は学童の出口から家までを夫と交代で付き添っているのだが、当然ながら娘以外の子どもたちにも目がいく。毎日、様子を見ていると親ですら知らない、気づかないような、子どもたちの「変化」に気づくことがある。

 ボサボサの髪でひとり走って行く子。声をかけると目をそらす子。ふくれっ面をしている子。登校中の寄り道がどんどんエスカレートしている子。いつもは友だちとにぎやかに歩いているのに、なぜかひとりでうつむいている子……。

 いってらっしゃいと送り出した後、出勤のため先に家を出た後、親は子どもたちの様子を伺うことはできない。でも、子どもたちの小さな心は、ときにはシクシクと痛んでいる。たとえ、大人にとって「そんなことぐらいで……」と思うような、ささいな出来事であっても。

ある女の子は毎朝、泣きながら歩いていた。どうしたの?と声をかけると、涙をポロポロと流しながら、うつむいている。

何か嫌なことがあったの?
なんでもない……。
どこか痛いの?
(首を振る)
じゃあ、一緒に学校まで行こうか。
……。

 そっと手を差し出すと、彼女は私の手をギュッとにぎった。道すがら、それとなく話を聞いてみると、小さな声で「学校に行きたくない」とつぶやいた。ああ、そうだったの。学校に行きたくないのね。そうなんだ。

 ここまで聞いたところで、校門に到着。今日はここまで。また明日、お話しよう。さあ、いってらっしゃい!

 彼女は娘と手をつなぎ、教室へと向かった。翌日も、その翌日も、泣きながら歩いてくる彼女を曲がり角で待ち、手をつないで登校する。同時に学童からの帰り道、「おうちに帰りたくない」とダダをこねる彼女を、家まで送り届けることもあった。

 毎日、少しずつ話を聞いたものの、結局わかったのが「学校に行きたくない」「家に帰りたくない」ということだけ。推察するに、入学して慣れない環境に疲れていたらしい。ひとりで登校し、ひとりで帰宅する緊張感。大人にとっては「そのぐらい」でも、子どもにとっては想像以上に大変で疲れることなのだろう。

 登下校で見えてくる、子どもたちの様子。親の知らない顔、親が気づかないこと。小さなココロの、ささいな変化を、私たちは見守っていきたいと思う。

 ……とカッコよく締めたものの、いつもいつも穏やかな気持ちでいられるワケもなく……。毎日毎日、かくれんぼをしながら登校する4年生の坊主たち! 人様のアパート裏手まで入り込み、駐車場を駆けまわり、大声で騒ぎ、遅刻ギリギリまで遊んでいる坊主たち! 一週間、片目をつぶって我慢していたものの、さすがにひどいので「遊んでいないで早く学校へ行きなさい!」と注意。そうしたら、なんと「ちぇっ、うるせーな」といいやがった! 誰に向かってクチ聞いとるんじゃ、ワレ。

 アタマに来たので1キロ四方にまで聞こえるほどの大声で、私はどなった。

「早く行け!」

 坊主たちは素早かった……。ピューンと逃げていった。通勤途中の人々がビックリして、振り返っていた。

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