続・病院でのはずかしいこと
ときどき、新小金井にある近藤皮膚科クリニックに通っている。サイトでは、タレ目のカワイイ写真を使っているが、実は銀縁メガネをかけていて、一見するとクールで神経質そう。
しかし、見た目とは違って気さくな先生で、診察室からしょっちゅう「ワッハッハ〜」と笑い声が聞こえてくる。何だか診察が楽しく思えるから不思議だ。
私は一昨年、足の付け根にできた粉瘤(別名アテローム)の手術を受けた。粉瘤とは皮膚の下に袋ができ、そこに角質や汗などがたまり、おできのようになるもの。何年か前から腫れたり、治ったりしていたのだが今回のは触るのもつらいほどだった。
足の付け根という場所柄、診察には躊躇したが、とにかく痛いので診てもらう。「どれどれ、見せて」という先生に対し、思わず「パンツは下げますか、めくりますか?」と聞いた自分がなさけない。先生は静かに「どっちでも」と答えた。私はしばらく考えて、パンツの脇を少しだけズリ上げることを決心した。
「ああ、これは中まで切らなきゃダメだね。治ってもまた再発するよ」と先生。とりあえず患部を少しだけ切って、炎症がひいたころ手術を行なうことにした。
手術までの間、幾度となく病院に通い、患部を診察してもらう。そのたびに私は「今回はパンツを下げたほうがいいですか?」と聞き続け、先生は毎回「どちらでも」と答えた。
手術日当日。さすがに今回はパンツを下げねばなるまい。案の定、先生は「下着をちょっと下げてください」といった。いよいよ、パンツを下げるときが来た! 全部をベローンと下げるのもはずかしいので、患部のほうだけをズリ下げる。
先生はおもむろにCDをかけ「こういう曲、イヤだったら変えるよ」といった。何の曲かは知らないが、クラシックだったように思う。クラシックの流れるなか、ベッドに横たわりパンツを下げている私。とても複雑な気分だ。このときほど「嫁に行っておいてよかった。子どもを産んでおいてよかった」と思ったことはない。嫁入り前だったら、ひと晩じゅう泣き通したに違いない。
手術は無事終わり、時間とともにその傷跡も薄くなった。
つい先日、別の件で診察を受けた。先生はパソコンの電子カルテを見ながら「そうそう、あの傷は大丈夫?」と聞いた。とっさに「おかげさまで……。見ます?」と、パンツを下げようとして止められた。人間、慣れとはおそろしいものである。
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