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失態

 ウンウンとうなっていた母は、1日たつごとに元気になっていて、その回復ぶりには目をみはるものがある。今日も病院へ行ってきたのだが、歩いたり起き上がるのには苦労するものの、口はすっかり達者になり「部屋が暑すぎる」だの「水一滴飲ませてもらえない」だの、文句をたれるほどだ。

 あまりに元気なので、ネットで拾ったガン患者さんの話をする。
「直腸を切ると、ほとんどが排尿障害が起きるんだって。出たいのに出ないとか、まったくしたくないとか大変らしいよ」
「ふうーん。もうトイレに行っているし大丈夫みたい」
「あまりに排尿障害が続くとね、水を大量に飲ませて、何人ものドクターが見守る中でおしっこさせられるらしいよ」

 ここまで話したとたん、母の「笑いのツボ」に入ってしまったようで、猛烈に笑い出した。当然、30センチも切った腹はキリキリと痛む。「やめて〜、笑わせないで〜」と懇願する母を見ていたら、私もつられて笑い出す。夫はかたわらでキョトンとしている。もう、こうなるとつられ笑いが延々と続く「笑いの無間地獄」である。何がおかしいのかは、もはや意味はない。

 あまりにつらそうなので、逃げるように廊下へ出る。廊下の突き当たりにある応接セットに行き、窓から景色を見るが、どうにも笑いが止まらない。笑いを止めようと声を殺すが、かえってそれがアダとなり、苦しさが増す。

 ガン患者がほとんどのフロアで、外をながめながらうなだれる私。そして、ときおり聞こえる、すすり泣くような声。だれがどう見ても「入院している家族がよほど悪いのかしら」と思うはずだ。確かに近くを通る患者さんや看護婦さんはみな、そっと私から目をそらしていた。

 みなさん、ごめんなさい。私、不謹慎にも笑っていました。

 そして、母の腹のキズが悪化していないことを祈ります。

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