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蹴ってください

 暑くなってくると焼鳥で一杯飲みたくなるが、子どもが生まれてからはすっかり飲みに行く機会が少なくなった。OLのころは毎晩、吉祥寺のいせや総本店で、コップ酒を立ち飲みしていたのに……。

 ある日、いせやで飲んだあと、なじみのスナックにもぐり込んだ。深夜まで大騒ぎをして、いい気分で店を出る。タクシーを拾おうと近鉄百貨店の前を歩いていたら「すみませーん。すみませーん」と声が。あたりをキョロキョロと見まわしてみると、ひとりのおじさんが道ばたで正座をしている。彼が私を呼んでいたのだ。

 こんな深夜に道ばたで正座をする男に呼び止められ、どうリアクションすればいいのか? ぼう然と立ちつくす私に彼はこういった。

「あ、あの。蹴ってもらえませんか?」
「は?」
蹴ってほしいんです。そのパンプスで」
「え?」
「あなたならやってくれると思って……」

 酔っていたせいか、パニックしたせいなのかはわからない。思わず彼に「あなたはどなたですか?」と聞いていた。聞いたところで何になるのか。すると彼は「怪しいものじゃありません」といいながら、しずしずと名刺を差し出した。超一流企業の部長だった。名刺だけ奪って逃げたら、おじさんは正座をしたまま「待って〜」と叫んでいた。

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