ひとめぼれ
彼に気づいたのは登りエスカレーターに乗っているとき。涼しげな浴衣を着た彼はエスカレーターの横に立っていた。その悲しげな瞳、幸薄そうな唇、憂いのある横顔を見たとたん、私の心はかき乱された。そう、ひとめぼれである。
「彼のもとへ行きたい!」
どんどん彼との距離が離れて行く。登りエスカレーターを駆け降り、彼のもとへ走って行きたかった。しかし、私の前には夫と娘、後ろには他の客が立っていて身動きがつかない。あらがうことのできない運命を呪いながら、私は夫にこう告げた。
「ねえ。あとで、あの人のところへ行っていい?」
階下の彼を指差す私に、夫は「ふーん、いいよ」とつぶやく。妻が興味を持った男を値踏みするかのように、チラリと彼を見ながら……。
約1時間後。夕飯を済ませた私たちは、ようやく彼のもとへ行くことができた。念願の対面である。しかし、彼のかたわらには浴衣を来て微笑む妻と娘、息子が……。私には夫と娘がいる。どんなに望んでもかなわぬ愛。せめて彼のことを忘れないようにと、そっとシャッターを押した。
これが彼。日本人なのかもわからない。
悲しげな瞳にノックダウン。
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コメント
ぷぷぷっ。これ、めちゃくちゃ面白い。
何度もすみません。
いま一つブログというものがよくわかっていないので、
お手本にさせていただいてます。
投稿: ぷれこ | 2004.07.19 02:06
朝から笑かしてもらいました。
悲しげな瞳に外国人離れしたなで肩
ほんのちょっとずれているように見えるカツラ。
流石です…
ふぅ~ん、この手が好きなんですねぇ…
投稿: あっくん | 2004.07.19 11:15
ぷれこさん、あっくん、おはようございます。
ひとめぼれをした彼、気に入っていただけました?
もう、激しく心を奪われたんです、私。
妻と娘、息子がニコニコとしているのに、
彼ったら「あさって」のほうを見ていて、何か悲しげ。
まるで「ああ、オレは幸せなはずなのに、
心のどこかにすきま風が吹いている……」とでも、
いいだけです。立川グランデュオにいるので、
よかったら会いに行ってあげてください。
投稿: poron | 2004.07.19 12:01
遠くを見ている眼が哀愁を感じさせますね。
楽しいはずの夏がなぜか悲しげです。
花火を一緒に観に来た彼女にふられたんでしょうか?
それとも、
人ごみに昔の彼女の姿を見つけたんでしょうか?
何か理由がありそうですね…
投稿: あっくん | 2004.07.20 16:56
あっくん、
彼には奥さんと娘、息子がいるんですよ。
3人は微笑んでいるのに、彼だけが
遠くを見ているんです。
本文にちゃんと書いてありますがな(笑)。
人ごみに昔の彼女を見つけたっていうのは
ありそうですねえ。……って、これだけ
想像力をかき立てられるマネキンも珍しい。
このblogを書いてから
「ああ、家族揃った写真も撮ってくれば
よかった……」と後悔しています。
立川、行ってこようかな〜。
投稿: poron | 2004.07.20 17:05