おばけがいるの【1】
夫は仕事。娘とふたり、リビングでくつろいでいたときのこと。娘が突然「うわぁ」と叫び、私にしがみついてきた。私のひざに飛び乗り、ギュッと目をつぶっている。「どうした? 虫でもいた?」そう聞いてみると、娘はおそるおそる風呂場を指差し、かぼそい声でこういった。
「あのね……。おばけがいるの」
ふーん、いるんだ。ちっとも私は動じなかった。なぜなら、私も「見えるタチ」だから。結婚してすっかりシアワセモードにひたっているせいか、最近は「アレ」を見ることは少ない。しかし、ハタチのころからずっと「アレ」の存在は悩みのタネだった。急死した友人が葬儀の晩、風呂場にやってきたり、部屋中を何人もの兵隊が歩きまわっていたり、クルマの後部座席に長い髪の女が乗っていたり……。
インドネシアの小さな島にある、リゾートホテルではベッドのまわりをペタペタと歩きまわる音で目が覚めた。友人はこの音に気づいているのだろうか、そう思って隣のベッドを見たところ、眠っている友人のお腹の上で、何やら白いものが動いている。月明かりだけが差し込む、薄暗い部屋ではそれが何なのかはすぐにわからなかった。しばらくして暗闇に目がなれたとき、ようやくそれが何なのか理解できた。
なんと、彼女の腹の上にいたのは白い服を着た女だった。女は長い髪をだらんと垂らして、友人の顔をのぞきこむようにして座っていた。
(つづく)
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