ヤバいタバコ
OL時代のこと。インド旅行から帰ってきたばかりの先輩が、更衣室から私のデスクに電話をかけてきた。「仕事中ごめん。おみやげを渡すから、こっそり更衣室に来て」という。電気を消した薄暗い更衣室へ入ると、こわばった表情の先輩が立っていた。
「あのね、これ。インドで買ったんだけど、ヤバいタバコなの。早くしまって!」
鬼気迫る先輩の声に脅され、差し出された包みをロッカーにしまう。なんだかわからないけれど、相当ヤバいものらしい。
「ヤバいってなによ」
そう聞く私に先輩はこっそり耳打ちした。
「ヤバいタバコっていったら、アレに決まっているじゃない」
ひえ〜〜っ。アレってアレですか? おみやげにアレはヤバいでしょうが。激しく動揺する私。「弟が吸ったらね、相当キタらしいよ」と彼女は付け加える。どうやら現地人に「ハッパあるよ」といわれて買ってきたらしい。ヤバい、ヤバすぎる。
人間、好奇心には勝てないものである。その夜、自分の部屋でもらった包みを開けてみた。エスニックな包みにタバコが数本入っていた。刻んだ葉っぱを、大きな葉で巻いてある。見るからに妖し気だ。「こういう好奇心でやめられなくなるんだよな」と思いながら火をつける。しかし、燻りくさいだけで何の変化も起こらなかった。
数日後。私は友人と吉祥寺で飲んでいた。次の店に向かおうと歩いていたとき、タバコの自販機が目に入った。この自販機は、いつも外国の珍しいタバコを揃えていて、私も遊び心で何度か買いに来たことがある。
(……?)
なんと、その自販機にあの「ヤバいタバコ」があった。先輩と私が「ヤバいタバコ」と思っていたのは、インドではポピュラーな葉巻きタバコ「ビディー」だった。タバコを売りつけたインド人はウソをついていない。だって確かに「ハッパ」だからな。
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