仕事とはいえ……
もう、ずいぶんと前のことだ。知り合いの代理店社長に「紹介したいクライアントがいるんだけど」といわれ、イソイソと出かけたことがある。何やらパンフを作るのにライターを探しているらしい。
そのクライアントの事務所は御茶ノ水駅からほど近い雑居ビルにあった。道すがら、社長に「どんな会社なの?」と聞くのだが「うーん。行ってみればわかるよ」と奥歯に物が挟まったようないい方をする。ま、いいか。パンフを作るっていうのだから、何かの会社だろうし。
事務所で引き合わされたナントカ部長さんは、ちょっと小太りのオヤジだった。あいさつを交わし、名刺交換が済んだところで、ナントカ部長さんはこう切り出した。
「健康グッズにはご興味がありますか?」
酒とタバコに浸りきっているこの私が、健康に興味があるわけないだろうが。正直な私は「いえ、ありません」とキッパリ。ナントカ部長さんは少々、困りながらも仕事の内容を説明し始めた。
「いえね、うちの商品を愛用しているお客さまを取材してほしいんですよ」
ははぁ、なるほど。よくチラシなんかにある「ご愛用者の声」ってやつか。いいよ、いいよ。やってやろうじゃないの。と思ったとき、ナントカ部長さんは自社商品のカタログを見せてくれた。そこに書かれていたのは……。
宇宙エネルギーを活用した健康ふとん!
宇宙エネルギーを共鳴させた波動水!
( ゜д゜)ポカーン
そのとき、隣の打ち合わせテーブルから女の声が聞こえてきた。その女は3人のババアを座らせ、ホワイトボードを指しながら、なにやら熱心に説明をしていた。耳をすますと「ハワイ旅行……」「ここで10万円……」「印鑑はご用意されていますか?」との声。
ホワイトボードに書かれていたのは、まさに「マルチ商法」のピラミッドだった。さっさと仕事を断わり、逃げ出したのはいう間でもない。
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