新宿はコワイ
それはOL時代のこと。いつものようにアフター5の酒を楽しむため、NSビルから歌舞伎町へ向かっていた。そのころはまだ、南口から東口へ抜ける階段は今のようにキレイなものではなく、錆び付いた階段があっただけ。薄暗くて、シケっぽくてデンジャラスな雰囲気だ。
階段はいわゆる「折り返し階段」で、踊り場に立たないと、その先が見えない。私は足を踏み外さないように、パンプスを気にしながら階段を降りていた。
……と、そのとき。暗い階段から私の前に誰かが飛び出してきた。相手の顔は見えないが、男であることはわかる。驚いて足を止めた私は、男が手にしているものに気づいた。
拳銃。
すぐそばのパチンコ屋のネオンに照らされ、あやしく光る拳銃。銃口はまっすぐ私を見つめている。男は暗闇で拳銃を向けたまま、息づかいだけがかすかに聞こえてくる。
(ああ、どうしよう。金なら少しあるので渡せばいい。身体目当てだったら……。前だけなら我慢するけれど、後ろまで犯されたら泣くに泣けない。あ、でも殺されちゃうかな。やられた挙げ句に金も取られてバキューンかよ。勘弁してくれよ。バーで待っている友だちは私が死んだことにいつ気づくのだろうか。1杯だけでも飲んでから死にたかったな)
人間、本当に恐怖を感じているときというのは、声が出ないものだ。息を殺して立ちつくすだけ。しかも、たった5秒ぐらいの間にあれもこれもと考えている。
カァァァァットォォォォ〜!
映画の撮影だった。新宿はコワイ。
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