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スピリタスな夜

 吉祥寺のバーで飲んでいたときのこと。その日、私は男友だちとふたり、カウンターで静かに飲んでいた。薄暗い店内に流れるジャズの音色。コンクリートとスチールを使ったシックなインテリア。初老のバーテンダーの控えめな接客は、ゆったりとした時間を過ごしたい自分にはなによりだ。

 10時を過ぎたころ、女性がひとりで店に入り、私の隣に座った。歳は25〜26か。スレンダーな美人だ。

「えっと……。スピリタスをください」

 メニューを見ながらつぶやいたことばに、バーテンダーだけでなく、カウンターに座っていた客全員が息を飲んだ。スピリタスはアルコール度数96度を誇るポーランドのウォッカだ。口元に近付けただけで、くちびるが乾くほどの強い酒である。だれもがこの先の展開を知りたがるように、ジッと耳をそばだてていた。初老のバーテンダーはゆっくりと女のほうを向き、諭すようにこういった。

「お客さま。スピリタスはアルコール度数が96度もある強いウォッカですが……」

 そのことばを聞き、女は一瞬とまどいを見せた。が、すぐに「だったら、ソーダで割ってください」と頼んだ。

 バーテンダーは先ほどよりも、少し強い口調でこういった。

「ソーダで割っても、普通のカクテルよりもかなり強くなります。女性がお飲みになるのはおすすめできません」

 もはや「スピリタスはお出しできません」といっているも同然だ。彼は彼女のことを案じ、あえて断わったのだ。バーテンダーとしてのプライドと優しさ。私はそんな「プロ」の仕事ぶりに感心しつつ、グラスを傾けた。

 そのとき……。私は気づいた。いま、私が手にしているのがスピリタスだということを。それも、ソーダ割りじゃなく、ショットである。初老のバーテンダーはスピリタスのオーダーを咎めることなく、サッサとグラスに注いでいた。なぜだ……。そう、考えていたのを見透かしたように男友だちはつぶやいた。


  「バーテンダーも人を見るのさ」

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コメント

なんというプロフェッショナルなバーテンダーさんでしょうか。素晴らしい!尊敬します。
バーカウンターのなかは、バーテンダーさんの聖域と聞きますが、バー店内そのものがバーテンダーさんの懐ですね。う〜ん、お会いしてみたいです。
そして「スピリタスはおすすめできません」と言われてみたい……ちょいマゾな気分です。(あ、さっさと出されたらどうしよう……)

投稿: さり | 2004.10.07 00:13

さりさんへ

なんだか、ごぶさた〜な感じです。ご機嫌いかが?
私はすっかりリフレッシュしてきました。
早く一緒に飲みにいけるようになるといいね〜。
そのときはスピリタスで乾杯だわ! 決定♡

投稿: poron | 2004.10.08 17:39

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