キャバクラでの在り方
独身時代、生命保険会社に勤める男友だちと飲んだときのことだ。ひさしぶりに会った彼は、腹まわりの肉が一段と増え、いかにも中間管理職、といった雰囲気。居酒屋に入り、お互いの恋人や仕事の話で盛り上がりながら、ふたりで日本酒をクイクイと空けた。
場所は新宿、午前1時すぎ。店はもうすぐ閉店、すでに終電もない。ふたりでホテルに入るような付き合いではなかったので、タクシーで帰ろうと提案。しかし、ホロ酔い気分の彼は「まだ、飲みたい」「お気に入りのいい店があるんだ」といいだした。まあ、まだ少しは飲めそうだ。彼オススメの「いい店」へ連れていってもらおうか。
その店は、雑居ビルの地下にあった。店へと続く階段がやたらとまぶしい。よくよく見ると、マメ電球とミラーがワッサリと並んだ階段だった。下からは、耳をつんざくほどの音楽が聞こえてくる。どう見ても「BAR」とか「居酒屋」じゃないのは明らか。不安を抱えながら階段を降りると、重厚なドアと黒服のボーイが待ち構えていた。キャバクラだった。
「ちょ、ちょっと。ワタシ、ジーンズだけど大丈夫?」
「へーきへーき」
もはやジーンズか否か、という問題ではない。女の私が客として入店してもいいのか、という問題である。しかし、酔っ払いの彼はうれしそうな顔をしているだけだ。
「○○さ〜ん!」
席についたとたん、なじみの女の子たちが続々と集まってくる。彼は見たこともないような、満面の笑顔で話を始めた。その横で、自分なりの「正しい振る舞い」を必死に考える私。この疎外感、ひさしぶりの感覚だ。ふと思い出しように、水割りを作ってくれるものの、キャバ嬢たちもどう扱えばいいのか困っている様子。「○○さんとは長いんですかぁ?」と聞かれ「5年ぐらいですけど」と即答し、流れる沈黙。ああ、コマッタ。
身の置き場を悩みつつ、ふと店内のステージを見ると、いつの間にか「見られている感たっぷり」に歌う彼の姿が。あまりにも気持ちよさそうなので、声をかけずに店を出る。さようなら、○○くん。思い出をありがとう。
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