テレクラで見つけた就職先(1)
むかーし、むかし。1年ほど勤めていた編集プロダクションを辞め、フリーライターとしてやっていくかを悩んでいたころだ。無職だった私は在宅でテレクラのサクラをしながら、日銭を稼いでいた。とはいえ、男まさりの私が色っぽい話ができるわけもなく、サクラとしては無能の部類に入っていたはず。
ある日のこと。「40すぎの会社社長」を名乗る男と電話がつながった。「なんの仕事をしているの?」と聞かれ「いまは無職」と答えると、その男は「じゃあ、うちの会社で働くといいよ」という。そもそも、テレクラの客に就職をあっせんしてもらうこと自体、バカじゃないかと思う。しかし当時は、食費やら家賃やらを払うために、とにかく稼ぐ必要があったのだ。
翌日、浅草の事務所まで面接に行く。店舗内装をしているという、その男の会社は「社長ひとり、女性事務員ひとり」しかいない、小さな会社だった。「イロイロ込みで月20万」といわれ、その「イロイロ」を深く考えないまま、就職が決まった。
初出勤日。シングルマザーだという女性事務員から「我が社のルール」を教わった。社長にはAとBふたつの名前があって、Aさん宛の電話がかかってきたら折り返し電話させますと伝え、Bさん宛の電話だったらすぐさまつなぐ、というものだ。社長が偽名を使っているあたりで怪しすぎるが、なんせ私は「イロイロ込み」なので追求しないでおく。
しばらくして、私はこの会社が「ふつうじゃない」ことに気づく。確かに店舗内装をしていて、原宿や渋谷の飲食店をいくつか手がけていた。しかし、社長室には毎日、ふつうじゃない人々が何人も訪れていた。客はたいてい男で、どう見てもサラリーマンじゃない。みんながみんな、小汚い身なりで、死にそうな顔をしながら社長のもとを訪ねてくる。
「あの人たちはなんだろう。取り引きの相手じゃなさそうだし」
そんなことを思っていたある日。私は社長の意外な素顔を知ることになる。
(つづく/(2)へ)
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