パチモンストーカー(2)
私たちはボトルもあることだし、と続けて数回、飲みに行った。2度目に店を訪れた数日後のことだ。私の部屋に無言電話がかかり始めた。最初はただのいたずらと思って無視していたが、あるとき相手が話しかけてきた。
「オレはアンタのことを知っている」
「最近、髪の毛を短く切っただろ」
「ベージュのスーツを着ていたね」
「今日はピンクのコートだった」
電話をかけてくるたびに、内容がエスカレートしてくる。相手は私の家の住所も、勤務先まで知っているのだ。目に見えぬ相手に恐怖を感じた私だったが、いたずら電話の回数が増えるにしたがって、にわかプロファイリングを始めるようになった。
●相手は男、年齢は20代後半から30代そこそこ。
●無言電話がかかるのは夕方5時〜6時のみ。
●いつも公衆電話からかけてくる。
●深夜の電話は無言ではなく、話をしてくる。
●かならず後ろで何やら音楽が鳴っている。
●私の服装を知っている。
●髪を切ったばかりということも知っている。
●住所と電話番号、名前、会社名を知っている。
最初に推理したときは、同じ会社の男だと思っていた。しかし、私はある日気づいたのだ。ボトルを入れるときに書かされた紙には住所や名前、電話番号、会社名を記入していたこと。髪を切ったことを店でミチコと話していたこと。そのときに接客していたのはひとりだけだった、ということ。そして、犯人が知っていた服装はあの店に行ったときのものだったことを。
私はある日、電話の相手にこうカマをかけた。「ねえ、こうやってお客さんの家にいたずら電話をしていることを、店に知らせてもいいわけ?」
黙り込む相手。やっぱりそうか。トドメだ。「あなた、デーモン小暮のそっくりさんでしょう!」
その日以来、彼は2度と電話をかけてくることはなかった。さようなら、デーモン。
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