アップルちゃん
広島から夫の両親が泊まりに来るというので、部屋中をひっかきまわしていたら、OL時代の写真が続々と出てきた。夫がそれに気づき、ジーッと見てひとこと。
「肌がぴちぴちぷるぷるだ……」
余計なお世話、である。それにしても、どの写真を見ても「水商売」にしか見えない。当時は確かに間違えられることが多かった。
上司とふたりでクラブへ行き、いい気分で飲んでいると隣から「オネエサン、水割り頼める?」と酔っぱらいオヤジ。「指名料がかかります」と切り返す私を見て「ねえ、夕方6時からこの子を預からせてくれないかしら?」と、上司にお願いするママ。そんなことがしょっちゅうだった。
ある日のこと。女の先輩たちともんじゃ焼きを食べに行く約束をした。電話当番で会社を出るのが遅れた私は、ひとり歌舞伎町の店へ向かう。雑居ビルに到着し、エレベーターを待っていると、降りてきたエレベーターから白衣を着たおじさんが出てきた。手には満杯になったゴミ袋を下げている。このビルのどこかにある飲食店のスタッフだろう。
「あれ、アップルちゃん!」
私の顔を見て、話しかけてくる白衣のおじさん。アップルちゃんってなんだよ。
「は?」
「アップルちゃん! アップルちゃんでしょう?」
「え? いえ、あの」
「アップルちゃんだよね」
戸惑う私をよそに、おじさんは「アップルちゃん」を連呼する。
「あのさぁ、ゴミ出しをちゃんとしてよ」
「は?」
「ゴミだよ、ゴミ。ママにいっといて」
「あの……」
「アップルちゃん、頼むよ!」
おじさんはそれだけを言うと、さっさとビルの外へ出ていってしまった。もはや、誤解を解くすべはない。アップルちゃん確定。どうにも納得できず、もんもんとしながらエレベーターに乗る。
「あ……」
私は気づいた。雑居ビルのなかに「スナック アップル」があることを。そして、私はそこの女の子だと間違えられたことを。すでにもんじゃ焼き屋に集まっていた先輩たちは、この話を大笑いして聞いた。翌日から私は会社で「アップルちゃん」と呼ばれることになる。
「はい、営業本部の○○です」
「あ、○○室の○○ですが、アップルちゃんお願いしま〜す」
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コメント
ワタシは化粧すると水商売のスカウター達に引っかかってましたね。
今では化粧は顔を薄くする為の手段です。
ちなみに前居た会社ではハチでした。
なぜなら、スグお腹が空いて、居眠りするから....。
アップルちゃんならかわいくていいじゃないですか~
投稿: うな | 2005.01.28 20:12
■うなさん
スカウトされるとは! うらやましい。
私は街角で声をかけられたことはないなぁ。
声をかけてくるのはなぜか外国人ばかり。
しかも、聞いたことねえって国の人が
多かったですよ。
投稿: poron | 2005.01.29 05:40