刺し殺す
仕事で調べものをしているうち、なぜか怪し気なサイトにたどりついた。どうやら児童ポルノばかりを紹介するアダルトサイトらしい。いかがわしいキャッチコピーとともに、幼い子どもの裸体を映した画像サムネイルが
紹介されている。娘を持つ母親にとっては神経を逆なでし、吐き気すら覚えるようなサイトだ。
画像サムネイルのひとつに、青いビニールプールで遊んでいる少女が映っていた。学校の校庭らしい場所で、裸のままプールに入っている。ほんの少しうちの娘に似ているじゃないか。同じ年頃だろうか。訳もわからないまま、こんな風にビデオで撮影され、性の対象として売られているなんて……。盗撮なのか、それとも金のために親が子どもを売ったのか?
私はいたたまれない気持ちで、その画像をクリックしてみた。キャッチコピーには「金のために親が娘を12万円で売った! あどけない5歳の無修正ビデオ!」と書かれている。無料サンプルのボタンをクリックすると、動画が始まった。シーンは学校の校庭。カメラが少しずつ青いビニールプールに近づいていく。うつむきながらおもちゃで遊ぶ少女の身体を、カメラはなめまわすように映していく。
あっ!
カメラに顔を向けた少女を見て、私は思わず叫んだ。それはまぎれもなく私の娘だった! カーッとアタマに血がのぼり、身体は怒りに震える。いったい誰がこんなことを!
そのとき、サンプル動画は娘のかたわらにいた撮影スタッフを映し出した。照明や音声、見たこともない男たちのなかに、たったひとりだけ見覚えのある男がいた。……夫だ! あの野郎、金のために娘をこんなことに利用したのか! 娘にこんなことをさせて、素知らぬ顔をしていたなんて! 最低だ! 殺してやる!
夫はとある広告の撮影に出かけている。あと1時間ぐらいで帰ってくるだろう。家に入ったとたん、まずは問いただし、認めたところでぶん殴ってやろう。そして、包丁で刺し殺す。それでもきっと私は、腹の虫が収まらないだろう。
……そんな殺人計画を立てたところで、私はハッと目を覚ました。寝汗をビッショリかいている。……夢だった。締切りの原稿を書き終え、娘と一緒に昼寝をしていたのだ。暑さで寝苦しかったため、眠りが浅かったらしい。
本当に広告の撮影に出かけていた夫はほどなくして帰ってきた。夢の話をし「あんたを刺し殺すつもりだった」と告白すると、彼は「うーん」といって黙り込んだ。「バッカじゃねえの」と笑うだろうと予測していた私は拍子抜けした。まさか……? まさか正夢だったらどうしよう……。
「まさか、心当たりがあるんじゃないよね」
おそるおそる問いただす。すると夫は「あきれて何もいえなかったんだよ!」と怒り出した。ああ、よかった。私の見る夢はいつも、異常なほどリアルだ。子どものころ、見た夢を話すと母は「よくそこまで細かい設定で夢が見られるわねえ」とあきれかえっていた。心臓に悪いうえに、夫婦仲まで危うくなりかねないような夢。おちおち昼寝もできたもんじゃない。
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