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ホテル井の頭

 原稿を書いたあとはいつも寝つけない。徹夜を続ければ続けるほど、カラダは疲れているのに、アタマが興奮していく。ドーパミン過剰分泌、分裂症一歩手前といったところか。

 今朝もそうだ。陽がのぼり始めたころに2本分の原稿を突っ込み、達成感あふれる状態で布団に倒れ込んだものの、アタマが覚醒していて眠れやしねえ。天井を見つめながら、いろいろなことを考えているうち、なぜか「ホテル井の頭」を思い出した。ずっと記憶の片隅にしまいこんでいたホテル井の頭……。

 ホテル井の頭は井の頭公園に隣接する、レトロ感あふれるラブホテルだ。私がここを利用したのはずいぶんと昔だが、その時期すでにこじゃれたブティックホテルが吉祥寺に出現しており、なにもここで用を足す必要はないだろう、という感じの位置付けであった。まず、驚くべきことに玄関に入るとババアが飛び出してくる。しかも、フロントカウンターなんかじゃなく、ドアから飛び出してきて、真正面に立ちふさがる。人目を忍んでホテルを利用するカップルに、容赦ないダメージだ。

「お部屋はね、1泊いくら。チェックアウトは○時」と説明され、早々に金を請求。金がないもんは泊まらせないよ、といった気迫すら感じられる。

「ちょっと待ってね」

 金を受け取ったババアは玄関横の事務室らしき部屋に入っていった。釣りでも持ってくるのかと、玄関で待っているとババアは何やら抱えて帰ってきた。……魔法瓶、茶筒、湯のみ。お茶セットかよ! さあさあ、どうぞと促され、部屋に向かう。クネクネと曲がる薄暗い廊下を歩くと、今度はものすごい傾斜の階段が現れた。人ひとりがようやく這い上がれる、という感じの、細くて急な階段。脚を踏み外したら地獄へまっ逆さまだ。ここで断念したカップルはいたのだろうか、ヤルだけの根性を試しているのか。ババアはお茶セットを抱えたまま、ものすごい早さで階段を登っていく。お前は忍者か。

 息も絶え絶えになりながら階段をよじ登り、ようやく部屋へたどりついた。ババアはさっさと部屋に入り、まるで「お疲れでしょう」とでも言いたげに、ジョロジョロとお茶を入れ始める。期せずして山のお茶屋で疲れをいやす旅人の心境を味わった。

 ようやくババアが部屋から出たので、風呂でも入るかと浴室へ。そこにはなんと金ラメの風呂おけが鎮座していた。しかも、天井にはなぜか藤棚。もう笑うしかないじゃないか。

 翌朝、チェックアウトをする私たちを目ざとく見つけたババアは「もう、外は明るいから、こっちから出なさい」と、にぎやかなバス通りに出る表口ではなく、井の頭公園へとつながる裏口を案内してくれた。外に出ると、そこにはジョギングをする人や、散歩を楽しむ老夫婦が……。目の前に広がる、さわやかな朝の風景と、迷宮から抜け出してきたヨゴレカップル。なんだかもうゴメンナサイの気持ちでいっぱいだったのである。

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雑ネタ」カテゴリの記事

コメント

隣の怪しい漢方薬屋の、マムシの瓶詰めも20年変わってない
ですねぇ。

投稿: へらコブラ | 2005.09.14 19:07

毎回出色ですが、今回はとくに出色のエントリ堪能いたしました。「ホテル井の頭」。短編小説でもいけそうなモチーフですね。海の向こうのイーグルスさんにもぜひ演っていただきたいです。

投稿: uno | 2005.09.14 19:27

これはかなり「連れ込み宿」「さかさくらげ」テイストですね(笑)。名前を書かされませんでしたか?
怪しさいっぱいなら襖を開けると天井は全面ミラー、丸い回転ベッドという部屋が隣に控えていたとか?今は法律で禁止されて作れない部屋ですけどね。

投稿: | 2005.09.14 22:46

吉祥寺通りを車で走るといつも見えるあの怪しげな・・・。
ラブホであることは知っていましたが
そんなことになっているとは。。。

投稿: 株トムシ | 2005.09.14 23:28

■へらコブラさん

いつかは買おうと思いつつ20年……だったりして(笑)。
隣のマムシは気がつきませんでした。
1杯ひっかけてから、ホテル井の頭に出陣したいなあ。

■unoさん

出色なんて、おはずかしい限りです。
イーグルスがホテル井の頭を歌ったら、私即買いします。
ぜひ三味線とかで演奏してほしい。

■惑さん

名前は書かなかったと思います。
あ、でもオトコが書いたかもしれません。
立ちはだかるババアが衝撃的だったので、
アタマが真っ白になってしまい、玄関口での記憶がわずか。

■株トムシさん

ぜひ1度ご利用ください。そして、レポートを。
お相手が必要であれば、いつでも同伴いたしますよ。

投稿: poron | 2005.09.15 01:40

ご無沙汰しております。
また本日も素敵なエピソードをありがとうございます。
あの界隈のホテルってシステムが独特ですよね?
もう少し東にある「ホテル荻窪」は、チェックアウト時に部屋まで集金に来ましたよ。
まだウブだった僕は、チェックアウトの連絡をした時に、うっかりと、

「○○○号室です。今、終わりました」

と言ってしまいました_| ̄|○

投稿: 秀魚 | 2005.09.15 17:38

ホテル井の頭ですか。。。
吉祥寺生まれの吉祥寺育ちとしては一度は行かなくちゃ行けないところですね。
残念ながらア・ランドか自由の女神にした行きませんでした。。。

最近の吉祥寺は人が多すぎてあまり行かなくなってしまいましたが、近鉄(現三越?)裏や丸井裏って今でも怪しい所なんですかね?

そうそう秀魚さん。。。
おいらもあります。。。
終わりましたって。。。
だって休憩で入って延長しますか?
って聞かれたから思わず言っちゃいました遠い昔のことですけど(爆)

投稿: しげちん | 2005.09.16 00:53

■秀魚さん

わははは、終わりましたですか! いいですねえ。
ホテル荻窪って青梅街道だかの近くにあるところでしたっけ。
確か、酔っぱらって乗ったタクシーに連れ込まれそうに
なったホテルです(笑)。無事でしたけど。
多摩地区は古い建物、古いシステムのホテルが多いですね。
地震がきたら、一発で終わりという感じです。
あ、いや、その一発じゃなくて……。

■しげちんさん

ホテル井の頭は見学するだけでも価値がありますよ。
私も吉祥寺はあまり行かなくなってしまいましたが、
三越裏の風俗店とかはあいかわらずあるようですね。
若いとき、よくあそこらへんで飲んでいたのですが、
ほろ酔い気分で歩いていると、必ず呼び込みのボーイさんに
「お疲れさまです」といわれました。
出勤前じゃないんですけどねえ(笑)。

投稿: poron | 2005.09.16 10:14

「○○号室です。今出ます。」って言ってたけどこれもよく考えたらハズカシイ・・・

投稿: あっくん | 2005.09.16 13:12

ホテル荻窪は五日市街道近くですね(笑)。
ここも行ったことないですが・・・

っつうかそもそも吉祥寺だの荻窪だの地元で
そんなことはできん(爆)。

もともとホテル荻窪はビジネスホテルだったのですが
私が学生の頃ラブホになったようですね。

投稿: 株トムシ | 2005.09.17 00:09

無くなった今となっては、行かれたことが羨ましいです

投稿: | 2012.12.21 00:28

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