ダメなヤツ
有機溶剤でラリった職人の話を記事にしたところ、リアリティあふれるコメントが続々とついて笑った。私的には「昔、中毒でした。歯なしです」なんていう、ドン引きコメントを期待していたのだが、ここの読者はまっとうな人間が多いらしい。ヨカッタヨカッタ。
ところで、へらコブラさんのコメント「知り合いが逮捕」で思い出したことがある。中学で同級生だったMくんだ。中学時代はたいして仲良くもなかったが、大人になってからは一緒に酒を飲んだり、家に遊びに来たりと長い付き合いを続けていた。Mはまつげが長くてハーフみたいな顔立ち、いくつになっても「やんちゃな男の子」みたいな男だったが、いつごろからか何やらあやしげな行動が目立ちはじめる。
夜中に電話をかけてきて「パーティをしているから今から来いよ」という。ロレツはまわらず、受け答えは支離滅裂。素人の私ですら「てめえ、シャブ食ってんだろ」とツッコミたくなるような様子なのに「注射器でさぁ、血を抜いてラリってんだよ」などといいわけをする。
そんな彼に嫌気がさし、しばらく連絡を取らずにいたところ、ひき逃げをして逮捕されたと友人から聞いた。あわてて彼の実家に電話をかけ、おかあさんと会う。彼女は泣きながら「いろいろと力になってほしい」とアタマを下げた。
Mが拘置所にいる間、たくさんの手紙を交わした。検閲の印が押された白い便せんには、自分がおかした罪を懺悔することばや親への感謝の気持ちがつづられている。手紙のやりとりは実刑判決、刑務所に入るまで続いた。そして、1年半後……。出所した彼はまっさきに私の家を訪ね、世話になったとお礼をいった。そのとき初めてひき逃げだけでなく、シャブの売人としても罪に問われていたことを知った。訪ねてきたMは真っ白のスーツに白いエナメルの靴。どこからどう見たってただのチンピラだ。それでも私は優しくて気の弱いところのある、子どものころのMに戻ってくれるだろうと期待していた。
出所後しばらくして彼から「札幌に行く」と連絡が来た。親戚の店を手伝いながら、シャブがらみの付き合いを断ち、更正したいという。おう、がんばれ。おかあさんのためにも、まっとうな人間にならないとダメだよ。
そして2年後。たまたま取材で札幌を訪れた私は、Mに電話をかけてみた。ひさしぶりに会わない? と聞く私にMは「今日は用事があるから、夜9時以降なら大丈夫」という。仕方がないので、ホテルでひとり夕飯を取りながら、彼からの電話を待つ。9時、10時、11時……。いつまでたっても電話は来ない。部屋に戻り、彼の携帯に電話をしてみるが、電源が切られていて通じない。12時、1時……。ようやく彼から電話がかかってきた。声が聞こえないほど、大音響で音楽が鳴っている。
「ずっと電話を待っていたのに。いまどこにいるの?」
「パーティがあってさ。今から来いよ〜」
ロレツはまわらず、受け答えは支離滅裂。以前と同じだ。酒なのかクスリなのかは知らないが、更正とはほど遠い生活をしているMに腹が立った。
「いい身分だこと」
「え? なに〜?」
「人ひとり殺しておいて、パーティだと?」
「え? 聞こえないんだけど〜」
「2度と電話するな」
「なに〜?」
「お前なんて死んでしまえ!」
Mとはそれっきり。ダメなやつは結局、いつまでたってもダメなんだ。どんなに親が苦労しても、どんなに友だちが心配しても、ダメなんだ。そのときの虚しい気持ちは、10年以上たった今でも忘れていない。
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コメント
良き友に優れる宝物なんて無いのに、Mクンは今も寂しい人生を送っているのですね。poronさんみたいな友人、一人いれば10人の親友を持ったのと同じなのに・・・。
自分に負けているワケでしょう。私の同級生にも何人もいます。どこで人生誤っちゃったのかなあ、って奴。まあ、人のこと言えませんけどね^_^;
投稿: poohpapa | 2005.10.27 17:43
初めまして、motikoと申します。
悪徳さん伝いに読ませて頂くようになって、半年ほどがたちました。
今回のブログを読んで、私も同じように思っていたので、コメントを初めて書かせていただきました。駄目な奴は一生ダメです。
そういう人は一日も早く死んでくれるよう私は祈っています。
何を隠そう、私は本当に数十年前から、実の兄が一日も早く死んでくれるように願っています。今日の記事と全く同じだからです。
投稿: motiko | 2005.10.28 10:49
確かに「ダメなヤツ」ですね。お母さまやporonさんの真心を分からないまま暮らす、これからの彼の人生は哀しいものでしょうね。
立ち直ることを信じ、「ダメなヤツ」と知りつつも、その虚しさを今なお忘れずにおられるporonさん。
どんなにか虚しく悲しかったことか……。
人は人に助けられて生きていますね。
poronさんという友人をなくしたヤツは、ホントにダメなヤツです。いつか惜しい友人を失ったことに気付いてほしいけど……無理かな??
投稿: さり | 2005.10.28 13:40
誰しも"辞められないもの"ってあると思うんです。
ヒトってよほど修練を積んでいない限りそこまで自制しきれる生き物ではないですから。
でも、ヒトとしてやっちゃいけないことってやっぱりやっちゃいけないんですよね。
親や友達の心からの心配を無にできるほどやめられない・・・悲しいですよね。
確かにダメかもしれませんがある意味かわいそうですね。
投稿: 株トムシ | 2005.10.28 22:07
ダメな奴・・だよな、やっぱ。
で、弱い奴なんだろうな・・。
で、寂しい奴なんだろう・・。
投稿: O氏 | 2005.10.28 22:09
■poohpapaさん
要は意志が弱い人間なんでしょうね。
気が弱くて優しいことと、自分自身に甘いのって
紙一重なのかもしれません。
男女の関係抜きの、いい友だちだったのに残念です。
■motikoさん
血をわけた家族からこれほど恨まれるなんて、
お兄さんは、よほどみんなに迷惑をかけ、
よほどつらい思いをさせてきたんでしょうね。
心配したり、どうにか更正させたいと願っている人が
いることを、どうして気づいてくれないんでしょうかねえ。
ホントに虚しくなります。
■さりさん
ときおり「今頃どうしているんだろう」と
考えることがあります。札幌で電話を叩き切った後、
きっと彼から謝りの電話がくると思っていました。
なのに1週間たっても1カ月たってもそれっきり。
もう10年以上たつのに、それっきりですよ。
■株トムシさん
そうですね……。私にも辞められないものはあります。
でも家族や友人を傷つけても続けたいものではありません。
彼のおかあさんが必死に減刑の署名を集めていたことや、
人にアタマを下げ続けていたこと、亡くなった人のこと、
悲しむ遺族のことを決して忘れちゃいけないんですよね。
■O氏
弱いんですよ。本当に。
腹のくくり方もわからないし、誘惑に負ける。
どうせロクな人生を歩んでいないと思います。
投稿: poron | 2005.10.29 01:15
軽〜く流してもらう積もりで書いたんですが、まさかこんなエントリーが(滝汗)
私の知り合いの場合も、周りのみんなが心配してました。
何度も忠告し、奥さんとも離婚寸前まで行き、何とか止められたんだと思っていたのですが........
彼から、拘留中に手紙をもらい、面会して来ましたが(ほかの知り合いは誰も行きたがらなかった)、全然凝りた様子は有りませんでした。あの時、素直に自分の罪を認めていたら、もしかして、何とかなってたんでは?とも思うんですが...........
投稿: へらコブラ | 2005.10.29 14:20
ダメな奴といいつつも、悲しさに満ちあふれて読んだ自分も切なくなりますね。
投稿: ina | 2005.10.29 18:57
■へらコブラさん
わざわざ会いに行ったんですね。えらいなあ。
私は手紙を送るのが精一杯でした。
その方、いまごろどうしているんでしょうね。
心配してくれる人がいるうちが幸せなんだけどな。
こりていなかったということは、捕まったのは運が悪かったと
思っているんでしょうか? 奥さんがホント気の毒です。
■inaさん
10年以上たった今でも悲しいし、さみしいです。
そんな気持ち、彼はきっとわからないんでしょうね。
投稿: poron | 2005.10.30 02:56
今回の日記の感想は「さみしい」という言葉に尽きるでしょうか。僕は当事者ではないので、感情移入のほどはさほどないと思うのだけど、やはり「さみしい」とは感じます。
“ 朱に交われば赤くなる ”
人間なんて感化されやすいもの。
どんなことでも、最終的には「自分」ですから。
周囲の人に責任はありません。
少しだけ戯言とか。
言葉は力を持っていて、必ず自分に跳ね返ってくるものだと思っています。だから、常に意識し、大切に接しなければならないと。
「心地よい言葉」は自分にとっても心地よく、
「そうでない言葉」は自分自身をも傷つける。
そんなことを思ったのでした。(失礼!)
投稿: コロラド | 2005.10.30 21:11
ふたたびさりです。
ずっと考えちゃいました。……で、思ったのです。
10年経っても、そのときの虚しさを忘れていらっしゃらない。
ということは、やっぱりporonさんは彼を見捨てきっていないのでしょうね。
弱くてダメな奴だけど、いつからでもいい、どこからでもいい。立ち直って欲しいです。たとえ一日でも、一瞬でも「ああ、俺はバカだったな」と思ってから、死んでほしい。
「弱くてダメな奴でも、まるごと許してやりたい」と思っちゃうバカなわたしです。
投稿: さり | 2005.10.30 23:43
面会に行った時、面会室の仕切り板(会話できるように、穴がブチブチ空いたアクリル板)とか、手錠とか、付き添いの警官の人相の悪さとかをみて、「スゲ〜、刑事物のドラマみて〜!!」とか、思ってたことはナイショです。
投稿: へらコブラ | 2005.11.01 06:51
■コロラドさん
まったくその通り。
いずれ自分に返ってくると思っています。
文章を書く時は何度も読み返して直すのに、
どうして言葉ってポロッと出ちゃうんでしょう。
思ったことがすぐに口に出る私。失敗も多いです。
■さりさん
いい友だちでしたから、気にはなっています。
でもその後を確かめる勇気もなければ、方法もありません。
まあ、根は悪いやつじゃない(と信じたい)から
更正してくれていればいいんですけどねえ。
■へらコブラさん
あはは。付き添いの警官、人相悪かったですか。
まあ、笑顔のすてきな警官じゃ、ナメられますからね。
うちの父は元警官ですが、ときおり遊びに来ていた
同期の仲間はみんな人相悪かったです。
どう見ても暴力団、みたいな人もいましたよ(笑)。
投稿: poron | 2005.11.01 14:26