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2006年2月の記事

プロの技

0006 この間の日曜は、整体本のDVD映像とスチール撮影のため、朝6時半起きでスタジオへ。スタジオの玄関で半分、寝ぼけたままエレベーターを待っていると、小学生低学年ぐらいの子どもが数人、1階のスタジオから飛び出してきた。どうやらエポック社のCM撮りが行なわれていたらしい。子どもたちは「ここってさあ、ユーメージンとかいるのかなあ」「いるんじゃねえの」と元気いっぱい。そのうちのひとり、男の子が私の顔をチラッとのぞきこんで、またまた元気いっぱいに「いや、ユーメージンなんていねえよ!」と叫ぶ。……おばちゃん、地元じゃユーメージンなんだけどダメ? 酒が強いとか、ケンカっぱやいとか。ワハハ。

 撮影は午前中〜夕方までがDVD、終わり次第スチール撮影を開始、というスケジュール。ここのところ、取材してあとは山盛りの資料を読み込んで作るような仕事が多かったから、スタジオ撮影はひさしぶりだ。出版社の編集者、編集プロダクション、著者、モデルとして来てもらった整体教室の指導者、スタイリスト、ヘアメイク、映像ディレクター、映像カメラマン&スタッフ、スチールカメラマン、アシスタントの総勢22人でテキパキと仕事をこなしていく。すべての作業がぶっつけ本番なので、どうなることかと思ったが、さすが「その道のプロ」である。ほとんどNGもなく、しかも「今日中に終わらないかも」という予測を裏切り、夕方6時にはすべての撮影を終わらせた。すごい、すごすぎるよ!

 著者の先生が持って来た越乃寒梅をスタジオの廊下で開け、スタッフみんなで乾杯した。紙コップにドボドボと注がれた越乃寒梅を飲んだら、なんだかもう「仕事はぜえ〜ぶ終わったぁ!」という気がしたのだけれど、翌日から写真の整理とコンテづくり、音声起こし、原稿作成をするのはまぎれもなく私なわけで……。撮影でまざまざと見せつけられた「プロの技」を、私も見習ってがんばるしかない。

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取材ノウハウ

 昨年、出版された整体の本が好評で、今年春に第2弾の出版が決定。引き続き、編集の一部を担当させていただくことになった。コンテづくりやDVD&スチールの撮影準備などがあって、ちょっと落ち着かないが、2回目ということで前回よりもずいぶんと仕事がやりやすい。人間って学習するもんなんだな、と思う。

 仕事はなんでもそうなのだろうが、取材や編集作業はとかく経験がモノをいう。マニュアルのない世界だからこそ、経験を積めば積むほど、仕事にムダがなくなり、あらゆるテクニックを覚えていくものだ。

 以前、アートトラック(いわゆるデコトラ)雑誌のフリー記者をしていたことがある。懇意にしていた女性誌の編集者が、同じ出版社のアートトラック雑誌編集部に異動。編集者に引っぱられる形で、右も左もわからないまま、全国各地へ取材旅行するようになった。

 アートトラックの世界にはさまざまなグループがあり、それぞれが年に1度、イベントを主催する。イベントの日は、他のグループが応援にかけつけ、また翌週は別のグループのイベントにこれまた日本中のデコトラが大集合。1年中、全国のどこかでイベントが行なわれているような感じだ。

 グループには「○○組」「○○一家」「○○船団」といった名称がつけられていて、トラックのオーナーさんたちは「スキンへッドに口ひげ」「ジャージまたはゴルフウェア」「金の喜平チェーン」のチンピラ風。サングラスは「濃度薄めの茶色もしくは紫のサングラス。レンズに角度あり」で、名刺は「金色の紙に黒の江戸文字」とか「和紙に筆字」がほとんどだ。こんなのが100人とか集まっちゃうイベントで、まだ独身でかわいかった私が取材をするのはそりゃもう大変で……。

「ねーちゃん、こっちもようけ撮れや」
「なんであっちばかり撮ってるんじゃ」
「うちのグループも撮らんかい、こら」

「あ、いえ、その……。誌面の都合で掲載できないこともありますんで」なんていおうものなら「写真を載せないとは何ごとじゃ! うちのグループのことを知っててそういっとんのか!」と怒鳴られ、挙げ句には「あっちのグループには挨拶したのに、うちには来ない」「うちらの酒が飲めないのか」など、からまれる始末。もう、最初のころは死にそうになりながら取材をしていたのだ。

 しかし、取材を重ねるにつれ、私は学習した。相手がチンピラヤクザ系であれば、こちらも「それ系」で取材をするのがいい。朝、イベント現場に到着するなり、主催グループのリーダーに挨拶し、取材の段取りをつけてしまうのだ。あとは、どこの誰が何をどういおうが「○○組の○○さんに話は通しています」「撮影するのは○○さんにいわれたところだけです」「今日は○○さんとこの取材で来たので、仕事中は飲めません」でOK。いわばヤクザの総長、組長に筋を通してしまえば、舎弟や他の組員をおさえられる、というわけ。

 そんな取材を続けるうち、 若い衆と酒を飲みに行ったり、トラックで送ってもらうようになるほど、図太くなった私。この雑誌の仕事から離れて7年……。トラッカー取材のノウハウを発揮する場はないけれど、あのときの経験はきっと何かに生きていると思いたい。図太さだけは確実に残っているし。

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へその緒

 先日、娘の通う保育園で、とある講演が行なわれた。それは助産婦(師)さんを招いて「いのちとからだの話」をしてもらう、というもの。講演は父母会が主催したもので、私はその担当委員をつとめていた。

 コトの発端はここ数年の妊娠ラッシュにある。何人ものおかあさんが第2子、第3子を身ごもり、日々大きくなっていくお腹で送り迎えをするうち、子どもたちは「大きなお腹」と「これから生まれてくる赤ちゃん」に興味津々。私が娘を迎えに行くたび、子どもたちが「赤ちゃんがいるの? いつ生まれるの?」とむらがってくる。これはねえ、ただの贅肉なんですけど……。

 こうした子どもたちの興味に加え、子どもの質問にどう答えたらいいかという保護者の悩み、近年増加している子どもを狙った性犯罪の心配などから「いのちとからだ」について話を聞く機会を作ろうと企画したのだが、いわゆる「性教育」ということもあり、委員会のなかでも賛否両論だったし、私自身も「いったいどこまで子どもたちに話すの?」と慎重にならざるを得なかった。

 結論として私を含めた委員会メンバーは「保護者向けではなく、親子が一緒に聞けること」「保育園で行なわれている保健指導と連動させること」「過激な内容にならないよう、充分に配慮すること」という、3つの目標を決めて、約10カ月かけて講師探しと園長との打ち合わせを行なってきた。

 そして、当日……。妊娠3週目、1カ月、3カ月、6カ月と大きくなっていく妊婦さんのお腹の中を、イラストにして見せる助産婦さん。最初は豆粒ぐらいだった赤ちゃんが成長していく様子や、へその緒のこと、どんな風に生まれてくるのかを説明すると、子どもたちは「うわあ〜」「大きくなってる!」と目をキラキラ。さすが、あちこちの保育園で講演をしている助産婦さんだけあって、話がとてもわかりやすい。ちょっとドッキリするようなイラストもあったけれど、それは妊娠〜出産の流れで説明していることであり、その部分だけを切り取って「そこまで教えるのか」「過激すぎる」と思うのは大人のいやらしさなのだ。

 男の子と女の子は身体が違う。大人になると男の人と女の人は、赤ちゃんが欲しくてギュッと抱き合う。そして、赤ちゃんはお腹のなかでこんな風に育つんだよ。生まれてくるときは赤ちゃんもおかあさんも大変なんだけど、がんばるの。あなたたちもこうして生まれてきて、みんながとてもうれしくて幸せな気持ちになったんだ。そんな風に生まれてきたあなたたちはとても大切な存在。だから、自分の身体を大切にしようね。プライベートゾーンは汚い手でさわったり、人に見せたり触らせたりしたらいけないんだよ。

 講演が終わり、帰宅したとたん、娘は私が妊娠中に読んでいた出産本をひっぱりだし、夕方暗くなるまで真剣に見入っていた。

「ねえ、ママと私はお腹のなかでヒモでつながっていたんだねえ」
「そうなんだよ。そのヒモで赤ちゃんに空気や栄養をあげるの」
「ふうん、すごいヒモなんだね」
「へその緒っていうんだよ。見てみたい?」
「え? 生まれたときにチョキンって切ったんでしょ?」
「ちょっとだけ残すの。しばらくすると乾いてポロッと取れる」
「へえ!」

 白い糸がついた、黒くて小さな塊。約5年間、引き出しに仕舞いっぱなしだったへその緒と、それを興味深げに見ている娘を見て、私のほうがなんだかジンワリとしてしまった。

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新宿でふたり酒

DSCN4781 先日、付き合いの長い編集者から「ちょっと遅めの新年会でもしません?」との誘いを受け、いそいそと新宿へ出かけてきた。「和食系でゆっくり話ができるところ」との要望に合わせて、西口から徒歩1分の「料理とお酒 わらびや」に予約を入れる。

 欲望あふれる新宿で40前後の女がふたり、ゆっくりと酒を飲むのは意外と大変だ。照明暗め、料理見映え重視、味イマイチ、値段ぼったくりな、いわゆる大人の隠れ家的な店をセレクトすると、カウンターあたりに今ここでハメかねないような濃厚カップルに遭遇する危険性が高い。かといって、焼き鳥の煙ただよう店は落ち着きがないし、1軒目からバーじゃ腹が空く。情報誌の常連みたいなチェーン店も嫌だし、OL時代に通っていた日本酒専門店は渋すぎる。新宿でほどほどを探すのは本当に大変なのである。

 その点、わらびやは駅近、大箱、よくあるこじゃれた和風創作料理店でありながら、他店とは決定的に違うものを持っている。それはものすごいハゲ&白髪オヤジ率の高さ。先日、行ったときも見渡す限り、50〜60代のオヤジ2〜3人組ばかりだった。みなさんとってもお行儀がよくて、酔っぱらって大騒ぎする人はいない。しかもこの店、満席なんてことはほとんどなく、いつ行っても女ふたりで4人席にゆったりと座り、テーブルに山ほど料理を並べ、閉店までゆっくりと酒を飲むことができる。料理はコレ、というものはないけれど、どれも当たり外れはない。そんなわけで、編集者やライターと新宿で飲むときは、たいていここを1軒目にしている。

 今回、編集者が私を呼び出したのには訳があった。なんと8年も勤めた会社を辞めたという。「ちゃんと会って辞めたことを話したかったんですよ」という彼女に、思わず「おめでとう!」と叫んでしまった。だって、もう何年も前から辞めたがっていたし、ずっと勤めていたとしても、彼女の「やりたい仕事」に繋がるような、スキルアップが見込めない仕事だったから。生きるため、稼ぐため……という意味合いで仕事をしているのでなければ、やりたい仕事をしたほうがいい。これっぽっちも興味のわかない記事をいやいや編集するのであれば、辞めたほうが自分のためにも、読者のためにもなる。

 ふたりで焼酎をちびりちびりと飲みつつ、いままでのこと、これからのことをたっぷり話してきた。真正面のテーブル席に座るオヤジの、ハゲ頭をながめながら「人生まだまだ。これからさ」とつぶやく夜であった。

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