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父の威厳(母バージョン)

 我が家では先日ちょっとした事件があった。それは気が遠くなるほど仕事が重なっていた3月末のこと。以前から娘と約束していたこともあり、なんとか1日だけ都合をつけて遊園地に行ってきた。遊園地で遊び、隣接する温泉でくつろいだ後、帰宅のためにモノレールで立川へ向かう。車内は4人掛けのボックスシートで、ポツポツと人が立っている程度の混雑ぶり。

 遊園地の最寄り駅からモノレールに乗り込み、夫と娘の3人でボックスシートに座る。隣のボックスには20代の女がひとり。豹柄のパンプスを履いた、だらしない雰囲気の女だ。

「絶対に〜、あたしのこと好きにさせてやる〜」
「あんな女よりも、あたしのほうが彼のこと好きだよ〜」
「そうそう〜、モノにしてやるって感じ〜」

 携帯電話を片手に、なにやら大声で話している。見た目同様、しゃべり方もだらしなく、しかも話しているのは「好きな男をどうモノにするか」という、キャバクラ通いのオヤジみたいな内容である。おまえ、いまここで話す必要があるんか? 車内のみんなに聞かせる必要があるんか?

 あまりのバカ女っぷりにあきれていると、娘が小声で「ママ〜、電車で電話はダメなんだよね?」といった。そう、ダメダメ。よくないよねえ。日頃、電車に乗るたび、娘には少しずつマナーを教えてきた。うるさくしちゃダメだ。降りる人が先。お年寄りには席を譲りなさい。携帯電話は迷惑だからいけない。なのに他人がすぐ横でマナー違反をしているのに、知らん顔をしていていいものか? 他人はいいけれど、あなたはダメでいいのだろうか? しきりに「ねえ、ダメなんだよね? よくないんだよね?」と問う娘。さて、どうしたものか……。

「携帯電話、うるさ〜い!」

 確実に聞こえる声で、注意をしてみるが、女は知らん顔で電話を続ける。もう1度「携帯電話、うるさ〜い!」といったあたりで、車内の人々が振り返る。ああ、見ているよ。みんな。でもなあ、かあちゃんの威厳を保つためには、ちゃんと注意をしないとダメなんだよ。見て見ぬふりはできないだよ……。

 絶対に聞こえているのに、シカトする女。あいかわらず、話し続けている。娘は私と女の顔を交互に見ながら、事の成りゆきを見守っている。……とそのとき!

「うるせえ! 電話やめろ!」

 車内にこだまする夫の声は、電車が通ったときのガード下に匹敵する100デシベルはあったはずだ。静まり返る車内。あわてて電話を切る女。なぜかうれしそうな娘。あの温厚だけが取り柄の夫に何があったんだろうか?

 立川に到着し、電車を降りたとたん、娘は興奮した様子で「パパ、すごいねえ。怒ったらこわいねえ」と私にささやいた。そうなんだよねえ。パパってさ、ふだんはママに怒鳴られっぱなしなんだけどねえ。すごいね、パパって。いざというときは頼りになるねえ。

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