いいんだよ
税務署から更正通知書が届いた。「更正」という言葉=「いいんだよ」by夜回り先生をイメージするが、別に生き様を更正をしろってわけじゃなく、どうやら所得税の更正をしましたよ、というお知らせらしい。
通知書には「この処分の理由」という、とてつもなく恐ろしい文言が書かれていて、なんだか死刑宣告されたような気分になってしまったのだが、その内容は「株式会社○○の源泉税44,000円を追加して更正します」というもの。会社の名前を見て、思い当たる節があった。
サラリーマンなどと同様、私たちフリーランスのギャラは、源泉税(支払い金額が100万以下の場合は10%)が差し引かれている。源泉税はいわば「税金の預かり」みたいもので、ギャラを支払う会社は預かった源泉税を税務署に納付し、私たちは確定申告で「すでにこの分の源泉は支払い済みですよ」と申告する。年間の所得や経費を計算した結果、税金を払いすぎていれば還付されるし、足りなければ納付することとなる。
ところが、処分理由に書かれていた会社は1度たりとて源泉徴収をしていなかった。ギャラの年間総額462,000円に対して一銭も……だ。初回振込時に源泉されていないことに気づいた私は、すぐさま取引先へ電話して「源泉が引かれていませんよ。そちらは源泉徴収する義務があるので、きちんと10%引いてください。じゃないと、確定申告のあと税務署から指導され、追徴課税されますよ」と説明した。でも先方は「経理と法務担当に確認しましたが、源泉の必要はないとのこと。確定申告時にそちらで処理してください」と答えた。
いや、別にいいんですけどね。こちらで「源泉徴収されていない金額」を申告すれば済む話だから。でも〜、そちらは会社だし〜、絶対に後で面倒なことになるんだけどなあ……と思いつつも、どうにもならないのでそのままのギャラで受け取り、確定申告できちんと申告しておいた。
たぶん、この件だろうと思ったが、念のため税務署に電話をしてみる。 電話口に出た税務署員に事情を伝えると「それはたぶん、あなたが出した確定申告書の計算ミスだと思いますよ」という。いや、そんなはずはないんですけど。だって確定申告書は国税庁の【確定申告書等作成コーナー】で作ったんだから。そもそも、この株式会社○○ってところは、一銭たりとて源泉徴収していなかったんだから、源泉徴収額が増えるわけがないでしょう。
そう伝えると「お調べして担当官から電話させます」といい、電話を切った。しばらくして、なんだか元気いっぱいなオヤジから電話がかかってきた。
「あ、○○さーん? 武蔵野税務署の○○です。あのねえ、その件ねえ、上野の税務署から書類がまわってきたんですよ〜。その処分理由にかかれている株式会社○○がですね、本来徴収すべき源泉税を、ちゃんと徴収していなかったんでね、追徴課税になったんですよ〜。それでね、その株式会社○○から源泉税を受け取りましてね、その結果、あなたに還付すべき金額が44,000円、増えたってことなんですよ〜」
担当税務官は続けてこんなこともいった。
「もしかしたら、取引先から『ギャラの振込時に引いておくべきだった源泉税を引いていなかった。後からこちらで払ったから返してください』っていわれるかもしれませんよ。だってその会社はあなたに多く支払っちゃっているわけでしょ? え? 何もいってきていない? じゃ、いいんだよ。今さら請求できないと諦めたんじゃないの〜?」
あわてて取引先にも電話してみたところ「以前、そちらから源泉引くように、さんざんいわれていたのに、必要がないと源泉徴収しなかったんですよねえ……。いいんです、うちのミスですから。そのまま受け取ってください」といわれた。
いいじゃない、いいんだよ……。人はね、正直に生きてるのがいいんだよ。誰かを傷つけてもないから大丈夫だよ。 昨日までのことはみんないいんだよ。まずは今日から、税務署と一緒に考えよう。還付金の追加っていうのも、いいもんだよ……。
……そんな夜回り先生の声が聞こえたような、聞こえないような。
最近のコメント