手間をかけるということ
半月ほど前、「Oさんからもらったの。半分わけてあげるわ」と、袋を下げた母が訪ねてきた。スーパーのビニール袋をのぞくと、何やらしなびた雑草が山ほど入っている。
「とにかく袋から半分ぐらいを、手づかみで出して。たらいに水を張ってね」
母はしょっちゅう、農家の友人から野菜をもらってくる。今回は大根と白菜のおろ抜き(間引き菜)だ。しなびたそれは、どう見てもただの雑草だが、水につけて1時間もすると生き返ったようにシャキッとする。水を何度も変えながら泥を落とし、1把ずつ枯れた外葉をはずしていく。
Oさんの畑は完全無農薬。ツルや木をしばるときでさえ、ビニールひもではなく、いずれ土に帰るわらのひもを使っている。だから、大根菜の根元には小バエの死骸がはさまり、白菜の葉にはモンシロチョウの卵が点々と産みつけられている。面倒くさいし、スーパーで買えばせいぜい200〜300円分。だけど、私はていねいに野菜を洗い、サッとゆでておいしく頂く。ゴミ同然のしおれた野菜も、手をかければ地元産・無農薬のおいしい素材になるからだ。
昨日は岩手から段ボールいっぱいの山ぶどうが届いた。すべての果実を房からはずし、たらいでゴミや枯れ葉、ツルを洗い流す。途中、小さなクモが手のひらを歩いたり、何かの青虫が浮かんできたりして、泣きたくなりながらも洗う。何度も何度もよく洗う。……なにやってんだよ、私。もう夜中の2時じゃないか。
ようやく、キレイになったら水を一滴も加えず鍋で煮る。1時間、コトコト煮込んだら、ザルとふきんで漉し、砂糖を煮とかす。午前4時、山ぶどうジュースの完成だ。山ぶどうジュースの原液は黒に近い紫色で、7〜8倍に希釈(水やサイダー)すると、それはそれは美しい紫色になる。すっぱくて甘くておいしいジュースは、手間をかけたぶん、よりおいしく感じるものだ。
最後は搾りかすから種だけを取り除き(気が遠のくような作業)、皮と100%ジュースと砂糖でジャムを作る。捨てたのは茎と種だけ。家族や友だちに飲ませたい、食べさせたいと思うからなせる技で、これが仕事だったら1日で廃業するだろう。
手間をかけるということ……。それは娘のおいしい笑顔が見たいから。
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コメント
表情は嘘つきませんからね~。
好きなあなたに、愛するあなたに・・・っていう
行動のパワーって、すごいものだと思います。
嬉しそうな表情や、「おいしいね!」みたいなスッと出る言葉が楽しみで、ただひたすらにやっちゃうんですよねぇ。
プチ恋愛してたころは必死に作っていましたなぁ。
やっぱ行動はこそが愛というか、思いやりというか。
言葉は「まやかし」な要素がありすぎかなぁ・・・。
投稿: コロラド | 2006.11.02 14:59
■コロラドさん
最近、娘はやたらと料理を手伝いたがります。でもってかならず「ね、ちゃんとできた?」「これでお母さんになれる?」「ママみたいにお料理できたい」といいます。ごはんを食べているときは、かならず「ママのごはんサイコー」
「お料理のテンサーイ」とほめてくれます。おだてられると、思わずがんばっちゃうもんですねえ。たまには娘もほめてやらねば……。
投稿: poron | 2006.11.06 03:32