« 2008年5月 | トップページ | 2008年9月 »

2008年6月の記事

9年目の使い初め

 先日のこと。雑誌の撮影で鍛冶屋さんへ出かけた夫が、おみやげを手に帰宅した。

我が家は夫婦揃ってフリーランスなので、お中元やお歳暮というものにはあまり縁がないが、取材先の方から「これ、よかったら」とおみやげを頂くことが多い。しぼりたてのおいしい牛乳だったり、名産品のおそばだったり、ときには箱いっぱいの野菜を抱えて帰ることも……。

 夫が鍛冶屋さんから頂いてきたのは、それはそれは美しい、手打ち包丁だった。安来(ヤスキ)青紙鋼二号入りのステンレス三徳包丁。切れ味のよさと手入れの楽さをあわせ持つ、使いやすそうな包丁だ。

 私が今、使っているのはステンレスの三徳包丁(関孫六)と、母から譲り受けた鋼の小出刃だけ。ここのところ、包丁の扱いづらさが気になっていて、新しい包丁を……と考えていたところだった。さっそく、頂いた包丁を使おう!と意気込んだものの、その前にひとつ、乗り越えなければならない壁があった。

 9年前、私が結婚したときに父からプレゼントしてもらった、鋼の三徳包丁だ。結婚をするにあたり、ロクな包丁など持ち合わせていなかった私が、父にねだって買ってもらったものだ。伊勢丹で1万2000円もした木屋の包丁で、砥石と一緒に買ってもらったものの、鋼のさびやすさ(ステンレスも鋼の一種なのでさびないわけではないが)を敬遠し、ずっと仕舞い込んでいたのである。

 包丁の研ぎ方ひとつ知らなかった私も、9年間の結婚生活でステンレスの包丁はそこそこ研げるようになった。鍛冶屋さんから頂いた包丁をおろす前に、父からの贈り物を使うべきなのでは? 切れはいいものの、手入れが大変な「鋼の包丁」を使いこなしてこそ、鍛冶屋さんが精魂込めて作った手打ち包丁を使う資格があるのではなかろうか……。

 そんなことを思い、9年間仕舞い込んでいた箱を開け、木屋の包丁を出してみた。ずっしりとした重さ、磨かれた刃はホレボレするほど。包丁を洗い、乾いたふきんで拭く。まずは、友人のお父さんから頂いた桃を切る。うーん、すばらしい! 次は冷やし中華用にキュウリの千切り。うーん、すばらしすぎる! 勢いのまま、錦糸卵もいっちゃうぞ! まさに糸のよう!

 新しい包丁の使い心地を堪能した後は、クレンザーで磨き、乾いたふきんで丁寧に拭き上げる。さあ、明日も美しいコンチェルト(協奏曲)を楽しませてくれ……。

 翌日。私の愛しい包丁は、うっすらプツプツと赤さびが現れていた。あんなに大切に、あんなに丁寧に手入れをしたのに、憎々しいほどプツプツしやがって! 鍛冶屋さんの包丁をおろせる日は、まだ遠い先のことかもしれない……。

| | コメント (10)

« 2008年5月 | トップページ | 2008年9月 »