萌え、じゃなくて
どこかで電話のベルが鳴っている……。
(ああ、まだ眠い。いま、何時?)
目を開けて薄暗がりの中、時計を見る。
(なんだ、まだ朝の5時か……)
留守番電話に切り替わり、スピーカーからボソボソと男の声が聞こえた。そして、ブツリと電話が切れる。
(誰だ、こんな時間に。間違え電話か)
もう1度、電話のベルが鳴る。
(これは間違い電話じゃない! 父か母か、はたまた誰かが倒れたのだろうか)
布団から飛び起き、電話まで駆けつける。
「もしもし!」
「寒い!」
今度は女の声。寒い? 誰?
「アタシ、アタシ」
母の声だ。ど、どうしたの? お父さんでも倒れた?
「火事! 火事なの! 隣のアパートが火事で、パジャマ1枚で逃げ出したの! 水浸しでみんなガタガタ震えているの! 冬物の羽織るもの、持って来て!」
あわてて夫と娘を叩き起こし、ダウンジャケットやガウン、半てんなど、ありとあらゆる冬物を引っ張り出し、クルマで駆けつける。実家まではクルマで5分の距離だ。
実家に近づくにつれ、狭い路地にたくさんの消防車が見えた。途中からクルマを降り、走って実家へ向かう。
うちの実家は1階部分が玄関と応接間だけで、2階を住居にしている。1階は他に3戸の部屋があり、アパートとして賃貸している。実家の前に駆けつけると、父と母、弟、そしてたまたま来日して実家に泊まっていた韓国人のおばあちゃん、1階のアパート住人が寒さに震えて立ち尽くしていた。みんな、放水の中、避難したものだから、ヌブ濡れだ。
出火元は実家の隣に建つ、木造アパートの一室。弟の部屋から5メートル程度しか離れていない部屋から出火したらしい。
古くからある商店街ということもあり、まさに住宅密集地で、風がちょっと吹いただけでも延焼は免れない。消防の人たちは道路からホースを引っ張り込み、実家の玄関先から放水していた。
幸い、風がなく、出火元の部屋が全焼しただけで、隣家への延焼はなかった。……が、弟の部屋の窓ガラスは熱でヒビが入り、玄関から2階へ向かう内階段は水浸し(上部の窓が開いていたため)になった。
父と韓国人のおばあちゃんは私の家へ連れていき、身体を暖めることができたが、母と弟、私は現場に残り、鎮火までの3時間、家に入れず。その後も警察や消防の事情聴取などでバタバタとしたのであった。
最近のコメント