ある日、倉庫の横でそれは起きた
私が住んでいるマンションの近くには、トタン張りの倉庫がある。以前、この倉庫はチンピラ工務店の機材置き場だったが、1年ほど前に倒産し、いまはクルマ屋が車庫&整備工場として借りているらしい。ふだん、めったにシャッターが開くことはなく、倉庫のまわりにはチンピラ工務店が置き去りにした枕木や機材が転がっている。
買い物帰りだった私は、倉庫の横の物陰に誰かがいることに気づいた。腰ほどの高さに積み上げられた枕木の後ろで、誰かがゴソゴソしている。最初はクルマ屋が何か機材を探しているのかと思ったが、どうも様子がおかしい。気にかかるので買い物袋をぶら下げたまま凝視していると、枕木の上からジイサンが顔を出した。
白髪にメガネ。80代と思われるそのジイサンは、顔だけを出してまわりをうかがい、私と目が合うとあわてて枕木の後ろに隠れてしまった。しかし、すぐにまた顔を出し、すぐに隠れる。そんなことを何度か繰り返した挙げ句、顔を出したまま私にガンを飛ばし始めた。
ギラギラした目とピリピリと漂う緊張感……。怪しい。怪しすぎる。何やら犯罪のにおいがプンプンする。空き巣か! それともあの枕木に火でもつけようっていうのか! 彼はあいかわらず、枕木から顔を出し、ガンを飛ばし続ける。ケンカ売ってんのかコラ。上等じゃねーか。
「あのジジイなら勝てる」
そう確信し、声をかけようとした瞬間、ジジイは枕木の後ろから静かに立ち上がった。
「あっ」
私は声を上げずにはいられなかった。ジジイは、グレーのズボンと水色のトランクスをひざまで下げ、中腰でケツを拭いていた。私を見つめながら……。
彼は倉庫の横、積み上げられた枕木の後ろでウンコをしていた。私がジッと見ていたため、ケツを拭くチャンスを失っていたのだ。ガンを飛ばし、「アッチいけ」と念を飛ばしていたにもかかわらず、私が立ち去らないので、覚悟を決めたジジイ。彼は念入りにケツを拭くと、なごり惜しむかのようにゆっくりとトランクスを上げた……。
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