カテゴリー「娘ネタ」の記事

水の味

 月に1度、娘は思春期早発症治療のため、小児科へリュープリン注射を打ちに通っている。梅雨に入り、外は土砂降り。初老の、ちょっと無愛想な先生と娘との会話。

娘 「せんせ、昨日ね。浄水場に行ったんだよ」
先生「へえ。学校の授業で?」
娘 「そう」
先生「どんなところだった?」
娘 「水をきれいにしていたよ。微生物できれいにしたり、濾過したりするんだって」
先生「その水はどこから浄水場に来ているの?」
娘 「多摩川だったかな〜?」

先生「きれいになった水はどこに行くの?」
娘 「みんなの家や学校の水道に」
先生「ふうん、そうなんだ」
娘 「できたてのきれいな水、飲んできたんだ!」
先生「どんな味だった?」
娘 「甘かった!家の水と変わんないっていう子もいたけれど……」

先生「雨の味ってどんな味か知ってる?」
娘 「飲んだことない」
先生「飲んでみたら? 浄水場の水とは違うかもよ」
娘 「保育園のころ、口を開けて飲んでみようと思ったら、先生が汚いからダメって」
先生「降り始めはダメかもね(笑)」

 会話を聞いていた私、思わず割り込む。

私 「注射打ったら、帰りにやってみたら?」
娘 「ええ〜!」
先生「いいねいいね、今は土砂降りだし。ワハハ」
娘 「雨なんて飲んでも大丈夫?」
先生「……(ニヤニヤ)」
私 「お腹が痛くなったら、また先生のところに来ればいいよ」
娘 「そっか!」
先生「ワッハッハッ」

 小児科を出た娘はザーザーと降る土砂降りの中、傘をささずに歩き出す。もちろん、顔を天に向け、口を大きく開けて……。顔も髪も服もびっしょびしょ。

私 「どう? 味、わかった?」
娘 「こんなに降っているのに、口にはあんまり入らない!」

 歩きながら、ますます口を大きく開け、天を仰ぐ娘。道行く人が笑っている。せんせ、変なこといわないでくださいよ……。

| | コメント (5)

ウットリさん

 厳しいこのご時世、働き盛りの人たちがリストラや派遣切りなどで、大変な状況だというのは見聞きしていたが、30代の弟も例外ではなく、昨年秋に検体回収の仕事をリストラされた。理由は会社の業績悪化だが、独身で実家住まいというプロフィールも、リストラ対象として都合がよかったのだろう。

 住む場所、食べるものは困らないにしても、当然のごとく弟はすぐに就活スタート。しかしながら、どこの会社も募集をかければ、応募が殺到し、面接はもとより、書類のエントリーすらできないような状況。年末が近づくにつれ、このまま無職で年を越すことになるのか……と弟だけでなく、母も父も私も絶望的な気持ちになっていた。

 ある日のことだ。「ダブルワークとして始めたけれど、うちの病院って時給はどうなんだろう」と疑問がわき、何となく新聞チラシのアルバイト情報を眺めていた私。たまたま掲載されていた障がい者福祉に関連する募集記事が目にとまった。

 ふーん、老人介護じゃないの?
 民間会社じゃなくて、公益法人なんだ。
 実績もあって、安定しているし。
 仕事は地味だけどやりがいがありそう。
 弟に意外と合うんじゃないの?

 勝ち気な姉とは違い、弟はとても優しくて、声を荒げたことは1度もない。温厚な性格でコツコツ型、でも競争力や欲はいまひとつ。営業マンに向いているタイプではないのに、営業職ばかり探している。そんなわけで、まったく福祉に興味のなかった弟を説得し、先方に問い合わせをさせてみた。結果……、すぐに面接→採用となり、無事に年を越すことができたのである。

 何よりも良かったのは、まったく志望していなかったにも関わらず、仕事を始めたとたん、楽しくて充実しているとのこと。資格取得など、一生の仕事として新たな目標を見つけたようだ。

 弟から採用されたという連絡をもらい、つい夫と娘に「ほらほら、やっぱり弟にぴったりの仕事だった! 私と違って優しいし、根気があるもの」とつぶやく私。

 それを聞き、娘がひとこと。

「そうだね。●●くん、ウットリさんだもんね!」

 ……?

 それをいうなら【ウットリさん】じゃなくて【おっとりさん】ですけど。
 
 

| | コメント (3)

健康いちばん

 一昨年&昨年はメタボ特需。アチコチで「どんだけメタボリックシンドロームが恐ろしいものなのか!」「内臓脂肪型肥満、高血圧、高脂血症、高血糖は死の4重奏!」「忍び寄る魔の手!」なんていう原稿ばかりを書いていたのだが、当の本人は特定検診でしっかりと「メタボ予備軍相当」に認定されるという、なんともやるせない結末に……。挙げ句の果てに新年早々から、フィットネスクラブのエクササイズ原稿を編集することになり、どう考えても何かの陰謀としか思えぬ。

 しかも、親友の あっくんまでもが、ウォーキングで40キロも減量し、我が家に来るたびその体型を見せびらかしに来る始末。やっぱり陰謀だ。

 そんなわけで見えざる強大な力に「健康」「ダイエット」の世界に引き込まれそうになりつつも、酒、煙草、徹夜、ドカ食いをまっとうし、不健康ライターの名を欲しいままにしている。

 そんな不健康ライターの王道をいく私だが、12月から毎週のように病院通いをしている。実はずっと前から、娘の成長がチト勢いありすぎなのでは?と気になっていて、小学校の振替休日を利用して総合病院を受診。血液検査やら頭&手のレントゲンやらをやって調べた挙げ句、「判断つかないから、虎の門病院を紹介する」といわれ、再び血液検査と手のレントゲンで1日、検査結果を聞くためにまた1日、頭部MRIと腹部エコーと診察で1日と虎の門まで通い、ようやく出た結果が「中枢性思春期早発症」。

 カンタンにいえば、脳下垂体から性腺刺激ホルモンが分泌され、その結果、本来であれば中学生とかで始まる二次性徴(思春期に起こるからだの成長)が、早く始まってしまうという病気。骨年齢が進み、急激な身長促進が起こり、からだも実年齢よりも成長する。成長スパートがみんなよりも早く始まり、早く終わるため、最終的には低身長になるケースが多い。

 もともとインターネットで思春期早発の記事をみつけ、もしかしたらと病院に連れていっていたから、病名を聞いても「ああ、やっぱりね」としか感じなかったけれど、もっと早く診察を受けていればよかったのかもと、後悔する部分もある。

 今後、数年の間、毎月1回ホルモンを抑制する注射を打たなければならないが、小児慢性疾患に指定されているため、治療には国からの補助が出る。そんなわけで、さっそく医療券を申請した。

 虎の門病院の小児科には、思春期早発や低身長、糖尿病など内分泌系の病気を持つ子どもたちが、たくさん通っている。昔は「小さく産んで大きく育てる」なんていうのが望ましい子育てだったが、大きくなればいいってもんでもない。

 小児科の先生は「背が低いからと気にして受診するケースは多いけれど、背がどんどん高くなることが病気のせいで、治療の対象だとはなかなか気づきにくいのよね」と話していた。健康なんて、と不摂生ばかりしている私だけれど、子どもの病気はつらい。健康がいちばん。

| | コメント (2)

いんげんとにんげん

 中国製の冷凍いんげんが巷を賑わしているが、我が家には水沢(岩手県奥州市)から届いたばかりの「いんげん」が山盛りになっている。母の友人が段ボールいっぱいに送ってくれたのだが、これらはすべて規格外品で、市場には出せないものだという。いんげんと同様に、今年の夏は段ボール何箱にもおよぶ規格外ピーマンが水沢から届き、お友だちにもおすそわけをして喜ばれた。

 規格外の野菜は「ナンボでも持って、け(帰れ)。持って帰らねば捨てるしかねえのす」と、農家の方が地元の仲良しさんに分けてあげるのだが、収穫期ともなれば食べきれないほどの規格外品が出る。すると、水沢から母のところへ恐る恐る電話が来る。

「また、ピーマンなんだども、いらねえか?」
「また、いんげんなんだども、もういらねえべなあ」

 いやいや、いるいる! なんぼでも食べるよ〜! そんなわけで、我が家も今年はずいぶんとおいしい野菜を頂くことができた。ゆうべも、いんげんを下ごしらえしながら、「もったいないよねえ、これ全部市場に出せないお野菜なんだって」と娘に話しかける。

 やわらかくて、甘くて、とってもおいしいのに、曲がっていたり、細かったり、太かったり、傷があったりと、ほんの少しブサイクに仕上がってしまったゆえに、捨てられる運命をたどる野菜たち。ああ、なんてもったいない!

 
 すると娘は、声をひそめてこういった。

「いんげんだけじゃないよ。人間だってそうだよ! ちょっとぐらい顔がヘンでも、心がよければいいんだよ! パパだってイケメンじゃないけど、優しいもの!」

 いんげんとにんげん……。相通ずるものがあったなんて。

| | コメント (2)

登下校で見えるもの

 入学早々、娘が痴漢の被害に合って以来、登下校の見守りを欠かさない。過保護すぎるのでは? という意見もあるだろうが、6年間続けた保育園の送り迎えから開放され、ホッとした隙をつかれたともいえる犯罪。精神的ダメージは思った以上に大きい。

 そんなわけで、朝は家から校門、夕方は学童の出口から家までを夫と交代で付き添っているのだが、当然ながら娘以外の子どもたちにも目がいく。毎日、様子を見ていると親ですら知らない、気づかないような、子どもたちの「変化」に気づくことがある。

 ボサボサの髪でひとり走って行く子。声をかけると目をそらす子。ふくれっ面をしている子。登校中の寄り道がどんどんエスカレートしている子。いつもは友だちとにぎやかに歩いているのに、なぜかひとりでうつむいている子……。

 いってらっしゃいと送り出した後、出勤のため先に家を出た後、親は子どもたちの様子を伺うことはできない。でも、子どもたちの小さな心は、ときにはシクシクと痛んでいる。たとえ、大人にとって「そんなことぐらいで……」と思うような、ささいな出来事であっても。

ある女の子は毎朝、泣きながら歩いていた。どうしたの?と声をかけると、涙をポロポロと流しながら、うつむいている。

何か嫌なことがあったの?
なんでもない……。
どこか痛いの?
(首を振る)
じゃあ、一緒に学校まで行こうか。
……。

 そっと手を差し出すと、彼女は私の手をギュッとにぎった。道すがら、それとなく話を聞いてみると、小さな声で「学校に行きたくない」とつぶやいた。ああ、そうだったの。学校に行きたくないのね。そうなんだ。

 ここまで聞いたところで、校門に到着。今日はここまで。また明日、お話しよう。さあ、いってらっしゃい!

 彼女は娘と手をつなぎ、教室へと向かった。翌日も、その翌日も、泣きながら歩いてくる彼女を曲がり角で待ち、手をつないで登校する。同時に学童からの帰り道、「おうちに帰りたくない」とダダをこねる彼女を、家まで送り届けることもあった。

 毎日、少しずつ話を聞いたものの、結局わかったのが「学校に行きたくない」「家に帰りたくない」ということだけ。推察するに、入学して慣れない環境に疲れていたらしい。ひとりで登校し、ひとりで帰宅する緊張感。大人にとっては「そのぐらい」でも、子どもにとっては想像以上に大変で疲れることなのだろう。

 登下校で見えてくる、子どもたちの様子。親の知らない顔、親が気づかないこと。小さなココロの、ささいな変化を、私たちは見守っていきたいと思う。

 ……とカッコよく締めたものの、いつもいつも穏やかな気持ちでいられるワケもなく……。毎日毎日、かくれんぼをしながら登校する4年生の坊主たち! 人様のアパート裏手まで入り込み、駐車場を駆けまわり、大声で騒ぎ、遅刻ギリギリまで遊んでいる坊主たち! 一週間、片目をつぶって我慢していたものの、さすがにひどいので「遊んでいないで早く学校へ行きなさい!」と注意。そうしたら、なんと「ちぇっ、うるせーな」といいやがった! 誰に向かってクチ聞いとるんじゃ、ワレ。

 アタマに来たので1キロ四方にまで聞こえるほどの大声で、私はどなった。

「早く行け!」

 坊主たちは素早かった……。ピューンと逃げていった。通勤途中の人々がビックリして、振り返っていた。

| | コメント (5)

脅迫電話

 長い夏休みが終わってホッと一息。0歳から保育園へ通っていた娘は、長期休暇の経験がない。たまにはよかろう、ということで夏休み期間中、学童を休み、思いっきり退屈な休みを過ごさせてみた。

 ……思いっきり退屈だろうと思いきや、これまた意外と忙しい。宿題、プール、自由研究、朝顔やカブトムシの世話、家の手伝い(これもしっかり宿題)、お祭り、旅行、帰省、お友だちの来訪。私は私で、娘の留守を狙って仕事をしたり、朝昼晩の食事のしたくとバッタバタ。なんだか、とってもせわしない夏休みだったように思う。

 そんな夏休み中のある日。夫は撮影で留守、私と娘は家にいたときのことだ。電話のベルが鳴り、出てみると「○○新聞と申します。電話で参院選継続全国世論調査を行なっております。ご協力いただけますか?」と女性の声。「いいですよ」と答えると、電話口の女性は次々と質問と回答項目を挙げていった。

「あなたは安倍内閣を支持しますか?」
「しません」
「選挙区では、どの政党の候補者に投票しようと思っていますか?」
「まだ決めていません」
「比例代表区では……」
「まだ決めていません」
「参院選選挙の投票に行くかどうか、今の気持ちにいちばん近いものを選んでください」
「かならず行きます」
「今、どの政党を支持していますか」
「特にありません」

 質問が終わり、電話を切ったとたん、横で聞いていた娘が血相を変えてこういった。

「ママ、どうしたの! 何があったの! 大丈夫?」
「選挙のことを聞かれただけだよ」
「えっ! パパは大丈夫なの?」
「……パパ? お仕事だけど?」
「パパが悪い人にユーカイされたんじゃないの?」
「……え? なんで?」
「だって、電話でママ、怖い顔で『いません、ありません』っていっていたから」

どうやら、私の返事だけを聞いていた娘は、こんな電話だと思ったらしい。

「警察には絶対に連絡するな」
「しません」
「パパを誘拐した。返してほしいか?」
「まだ決めていません」
「金をよこせば返してやる。どうだ、返してほしいか」
「まだ決めていません」
「金を持って来ないとぶっ殺すぞ!」
「かならず行きます」
「で、貯金はいくらあるんだ」
「特にありません」

……想像力ありすぎ。しかも、「返してほしいか」「また決めていません」って何だよ(笑)。

| | コメント (6)

犯罪

 その日、娘には「今日は学童はお休みにしたから、給食を食べたら帰っておいで」といってあった。昼過ぎ、そろそろ帰宅するころかなと時計を気にしながら、仕事をしていたところ、外から子どもの声が聞こえる。女の子の甲高い声……。集団下校をしてきた娘が、マンションの前で友だちと「じゃあね、バイバーイ」などと言い合っているのだと思っていた。……そして、1分後。けたたましいチャイムの音とともに、娘の叫び声。

「ママ! 開けて! 早く!」

トイレでも行きたいのかと思いつつ、あわててドアの鍵を開ける。血相を変えて飛び込んできた娘の言葉は、まったく想像をしていないものだった。

「そこに変なおじさんがいた!」

 どこに? どんなおじさん?何が変だったの? 矢継ぎ早に質問する私に、娘はしどろもどろで答える。

「すぐそこに変なおじさんがいて、こんにちはっていわれたから、こんにちはっていったの」
「マンションの人じゃない。見たことがない人。お客さんだと思った」
「いま、帰り?って聞かれて、そうですって答えたの」
「そうしたら、何かついているよって来て、スカートをめくってお尻を触ったの」
「辞めてください!って大きな声を出して、手をパチンとやって……」
「いいから、いいから。こっちにおいで。何かついているよっていうの」
「怖くなったから走って逃げて来た」

 ここまで聞いた私は、娘に「家にいて! 鍵をかけて!」と叫び、すぐさま玄関を飛び出した。娘がいう場所には、誰もいない。マンションの敷地と、それぞれの階段、道路の果てまで見たけれど、誰もいない。すぐに家へ戻り、学校へ連絡した。

応対した副校長先生は「とにかくすぐ、警察へ電話してください。パトカーがたくさん来ます。娘さんはショックだろうから、警察にはお母さんからお話をしてください」という。指示に従い、すぐに110番通報。電話に出た警察官は、事細かに事情を聞き「娘さんと話せますか?」といった。

電話をしている最中、抱きしめていた娘は思った以上に落ち着いていた。「おまわりさんが話したいっていうんだけど、どうする?」と聞くと「いいよ。お話する」と答えた。

やや戸惑いながらも娘は、警察官の質問にしっかりと答えていた。犯人の人着(人相・着衣)、逃げた方向、自転車か自動車か歩きか、腕をつかまれたりはしなかったか……。

「そろそろ、警察官が到着するころです。電話を切ってお待ちください」

そういわれて、電話を切ったとたん、玄関のチャイムが鳴った。てっきり警察官だと思いながら、ドアを開けると娘の担任の先生が立っていた。肩をはずませ、息を切らせている。娘の担任はまだ20代の、若くて元気な男の先生だ。学校からあわてて走ってきてくれたらしく、先生の顔を見て娘もホッとしているのがよくわかる。

「大丈夫ですか!」

 いま、警察へ通報したところです……と答えてすぐ、派出所から来たらしい警察官が玄関へ現れた。そして、間もなくパトカーが続々と到着。副校長先生も駆けつけてくれた。

「大きな声を出して逃げたんだって? えらかったね」
「怖かったね。落ち着いて逃げることができたんだね。えらかったよ」

担任の先生も副校長先生も、とにかく娘をほめちぎった。大げさなほどにほめてほめて、親としては少し照れくさいほど。でも、こうした先生方の対応が、のちに娘の心に大きく影響を与える。

生活安全課の刑事さんたちが、何台もの覆面パトカーで駆けつけた。車内で保護者立ち会いのもと、事情聴取を行なう。別々の刑事さんが、入れ替わり立ち代わりパトカーに乗り込んできて、何度も同じことを聞く。

「その人の特徴は?」「どっちに逃げた?」「他に何かされた?」「どこにいたの?」「どんな服を着ていた?」「身長は?」「年齢はどのぐらい?」「メガネはかけていた?」「どっちに逃げたかわかんないかなあ?」

 私自身、痴漢を現行犯逮捕をし、事情聴取を受けたことがあるので、こういうもんだとはわかっているが、あまりに同じことばかりを聞くので、イライラがつのる。

「それはさっきから何度も答えています」
「だから! 娘が逃げてきたんだから、その後のことはわかりませんって答えているでしょう?」
「通報時に電話でも伝えています」

 娘の訴えが間違いでないか、虚言ではないか、記憶違いではないのかを確認する必要があるのはわかるが、嫌な記憶を掘り返されるのは、気持ちのいいものではない。性犯罪にあった成人女性が警察へ行くのをためらう、ということを耳にするが、それも当たり前だと感じる。我慢の限界(娘ではなく、私の)が近づきつつあるころ、刑事さんのひとりが私だけを車外に連れ出し、小声でこう耳打ちした。

「お尻を触られたといっていますが、おかあさん。いちおう、念のため、ご自宅に1度戻り、娘さんの体をチェックしてください」

 予想外のことに愕然とする。そうか、確かにそうだ。娘ぐらいの年齢では、まだ何をされたのかもわからずにいることも多い。まさか……!

 あわてて娘を連れ帰り、女性の刑事さんとともにスカートや下着、体のチェックをする。娘は「お尻をペロッと触られただけだよ〜」と笑っている。たまたま、スボンとスカートが一体化した、いわゆる「パンツインスカート」というものを履いていたため、下着を触られたり、直接体を触られたわけではなかった。それでも、刑事さんに耳打ちされるまで、そんなことを考えもしていなかった自分にあきれかえる。

どうやら、犯人は集団下校の列の後ろから自転車でついていき、娘がみんなと別れてマンション敷地内に入るのを確認し、追いかけてきたらしい。そして、自転車を止め、さも来訪者のような顔をして声をかけてきたのだ。

入学直前、我が家では何度も子どもを狙った犯罪について、親子で話し合っていた。知らない人に声をかけられても、付いて行かないこと。話しかけられても、できるだけ離れていること。嫌なことをされたらすぐに大きな声を出すこと。変だと思ったらすぐに逃げること。たとえ、顔見知りでもパパのクルマ以外は乗っては行けないこと……。

こうした話をしていたこともあり、娘は逃げることができた。そして、先生方が真っ先にほめてくれたことで、事件当初は「怖かった」だけの気持ちが、すぐに「自分は大きな声を出せたのがえらかったんだ」と気持ちを切り替えられたことも幸いした。あれから数日……。娘は元気に学校へ行き、私と夫は交代でマンション前に立って登下校の見守りをしている。今度もし、犯人を見つけたらタダではすまさない。私たちの娘に怖い思いをさせたことを、一生後悔するほどの恐怖を味あわせてやろう。

追記・ほんの少し尻を触られた程度で、何を大騒ぎしているのかと思う方もいるかもしれない。確かに被害届を出すまでもない事件であろう。しかし、こうした犯罪はいずれエスカレートし、再犯を重ねるケースも見逃せない(日本では犯罪者の追跡調査をしておらず、正確な再犯率のデータは公表されていない)。

数年前ならいざしらず、現在は満員電車で「尻を触っただけ」でも、迷惑防止条例での検挙、もしくは強制わいせつの現行犯で逮捕される時代だ。特に子どもを狙った犯罪は年々、増えており、保護者の意識(この程度で大騒ぎをするなんてという、犯罪の見逃し)改革も必要と思われる。事実、事情聴取のときに話をした刑事さんは「このぐらいで通報するなんてと戸惑う人が多い。しかし、通報をする、パトカーが駆けつけるという行為だけでも、犯罪者にとっては嫌なもの。犯罪抑止のためにも、ささいなことでも通報してほしい」と話している。

参考リンク

子ども対象・暴力的性犯罪への再犯防止策について

子どもの安全 :警視庁


| | コメント (10)

娘へ

_dsc1533_5○ちゃん、小学校入学おめでとう。あなたがまだママのお腹で、小さな命を育み始めていた頃、ママは3カ月を過ぎるまで気づきませんでした。そういえばしばらく生理がないなぁ、変だなぁと産婦人科へ行ったら、「もう、3カ月よ。普通ならつわりが起きているころ。まったく気づかなかったの?」と先生に叱られました。 3カ月も気づかず、お酒を飲んだり、走ったり、徹夜をしていたのに、よく無事だったよね。がんばってくれて、ありがとう。あのときは本当にごめんね。

 あなたがお腹の中でぐんぐん大きくなっていく間、ママはとても幸せでした。ハッピーホルモンが出ているんじゃないかと思うほど、何をしても、何を見ても心がホカホカしていたことを覚えています。

ママはとても元気だったから、臨月まで自転車に乗ったり、取材に行っていました。取材先の人はママの姿を見てビックリ。そりゃそうだよね。はちきれそうなお腹を抱えた女の人が「ライターです。話を聞かせてください」って来るんだもの。みんな、どうしていいかわからず、本当に戸惑っていたよ。

あなたが産まれる前日も、パパと一緒に焼き鳥屋さんへ行き、ウーロン茶を飲みながら焼き鳥をモリモリ食べていました。カウンターで焼酎を飲んでいた作業着のおじさんがグラスを片手に、ママのお腹をしげしげとながめます。『おとうさん』と呼ばれるその人は、おかみさんのご主人。いつも仕事を終えて、この店に飲みに来てママやパパもとても良くしてもらっていました。『おとうさん』はママのお腹をそっと触り「……うん、もうすぐ産まれる。この子は元気な女の子だ。楽しみだなあ」といいました。

焼き鳥屋さんから帰宅したあと、ママは破水し、病院へ向かいます。明け方になっても陣痛が起きず、お医者さんは困惑顔。「自然分娩で大丈夫そうだけど、もう少し待つ?」と聞くお医者さんに、ママは「手術してください」とお願いしました。なんだか、そうすべきだと感じたのです。

 手術をして、あなたが産まれました。お医者さんは「逆子に加えて、片足だけ上げた変な体勢になっていた。あのままじゃ、出て来られなかったよ。自然分娩にこだわっていたら、細菌感染を起こして危ないところだった。母親の勘はすごいね」とビックリしていました。

あなたはこうして、私たちの家族となり、大きく成長しました。笑顔でお腹をさすっていた、焼き鳥屋の『おとうさん』はその後、ガンで亡くなりました。5歳になったあなたを連れ、ひさしぶりにお店を訪れたとき『おとうさん』の死をを聞きました。

あなたは小学校へ入学し、私たちの手から少し離れて、いろいろなことを経験します。ママやパパとケンカをしたり、反抗的な気持ちになることもあるでしょう。でも、あなたは望まれてこの世に生まれ、たくさんの人の愛情を受けて育ってきたのです。 あなたが産まれるのを心待ちにしていた人がたくさんいます。決して、そのことを忘れずにいてください。

| | コメント (12)

おとなの姿勢

 今年の4月、娘が小学校に入学する。卒園文集の製作をしたり、ランドセルを買ったりと、バタバタしているのだけれど、親として何が不安かといえば「いじめ」である。

 私が子どものころだって、いじめはあった。ランドセルを背負っていた時分、すでにドロドロとした「女同士の派閥争い」があったし、通学路では上級生が待ち伏せし「てめえ、生意気なんだよ」と怒鳴られる。特に私はひとつ上の上級生から目をつけられていたから、中学に進学しても執拗な嫌がらせは続く。そいつらが卒業するまで続くのだ。

 上級生にいじめられるのは特に理由があったわけじゃなく、単に私が気に入らなかっただけだ。同級生の中でも背が高く、小学校の生徒会長をつとめる活発な私を、生意気だと思っていたらしい(ま、いま思えば確かにクソ生意気な子だったと思う)。

 親や先生にいえば「チクリ」といわれ、ますますいじめがエスカレートする。毎日毎日、上級生と顔をあわすたび、ビクビクして過ごしていたが、そのうち私は「抵抗しないからエスカレートするんだ」と気づいた。そうだ、弱いからいじめられるんだ。上級生の陰にビクビクし、下を向いて歩いているからいじめられるんだ。だったら、強くなればいい。気の強さ、ケンカの強さ、意志の強さ、人脈の強さで抵抗すればいいんだ。

 そう考えたら、キャンキャンとほざいているような上級生が怖くなくなった。怒鳴られたら怒鳴りかえす。呼び出されたら、ニタニタ笑う。何かされたらすぐにチクル、すぐにやりかえす、すぐに手をまわす。どんなことがあっても、こっちからは仕掛けない。何かされたら、行動するのみ。そうするうちに、上級生は手を出さなくなり(出せなくなり)、私は「一見、ふつうの中学生」でありながら、裏番と呼ばれるようになった。

 幸い、私自身は元来持っていた「気の強さ」でいじめを克服することができたが、果たして、うちの娘にいじめに打ち勝つだけの気の強さがあるか? たぶん、無理だろう。もしも、娘が「胸がキューッと痛むような」いじめを受けたら? もしも、娘が親にいえずに悩んでいたら? 守ってやれるのは親しかいない。

 私は娘が保育園から帰ると、かならず「今日はどうだった?」と聞いている。毎日毎日、たった数分だけど、楽しかったことや友だちとケンカしたこと、いわれて傷ついたことを聞いている。そして、ときおり「誰かにいじめられたら、すぐにママにいいなさい。ママがかならずその子を叱ってやる」と話している。そして、その子に会ったときに叱るか、頃合いを見てその子の親に話す。だから、娘は何かあるとすぐに私にいう。チクリまくりのチクリ放題!

「ママ〜、きょうね〜、○○くんがお腹をけっとばした〜」
「なぬ! お腹はよくない! しかも、女の子なのに」
「やめてっていったんだよ。でも、やめないの」
「わかった。○○のかーちゃんにメールしとく」

 いじめはよくない。親同士の「妙な」遠慮も必要ない。いじめをすれば、それはすぐに相手の親の耳に入り、そして自分の親の耳にも入る。親のいない場所であっても、やったことがすぐにバレて叱られる。大人すべてが「いじめは許さない」という姿勢を貫かずして、子どものいじめはなくならないのだ。

| | コメント (3)

乗馬教室

_dsc0001_1
昨日、武蔵境の日本獣医生命科学大学(2006年度に大学名を変更。旧校名は日本獣医畜産大学)へ行ってきた。……といっても、メーン会場の第一校舎ではなく、馬術部の馬場がある第二校舎だけ。事前にホームページで「5日、親と子の乗馬教室。満12歳以下の児童および園児」という告知を見て、開始時間1時間前&一番乗りで出かけたのだ。

娘は最近、なぜか馬のぬいぐるみがお気に入りで、誰かからもらったトロットサンダー(マイルC.S優勝馬)と、お祭りのバザーで買った青毛(全身真っ黒のサラブレッド)の2匹をこよなく愛す。「馬小屋を作る」と段ボールと格闘したり、「ケガをしたから手術して」と、ほどけてしまった縫い目を直させたり、それはそれは愛情たっぷりで馬のぬいぐるみを世話している。そんな娘に「ホンモノを見せてやりたい。ホンモノに乗せてやりたい」と思い、連れて行ったのだ。

_dsc0012 _dsc0079


厩舎には10頭以上のサラブレッドがいて馬をなでたり、ニンジンをあげることができる。私自身は馬との最大接近距離が「東京競馬場のパドック、かぶりつき」程度、娘にいたっては「ポニー乗馬体験のみ」だったから、親子揃って鼻息も荒く、馬を触りまくってきた。

 カワイイ! かわいすぎ! ブルッと鳴かれてはビビリ、前脚を踏みならされてはビビリ、フンッと鼻を鳴らされてはビビリながらも触りまくる。カワイイ!

_dsc0022 _dsc0047

 その後は馬術部のカドリール(人馬でチームを組み、音楽に合わせて行う演技)を見学。さまざまな歩き方をしたり、円を描いたり、交差したり……。ふだんは静かな馬場に大勢の見学者がいるせいで、馬たちはいつも以上に緊張していたらしいが、首に汗をかきながらがんばっていた。

 そして、いよいよ乗馬教室。馬にまたがり、馬場を往復するだけだが、サラブレッドに乗れる機会なんて早々ない。娘は背筋を伸ばし、ニッコニコの笑顔で楽しんでいた。降りるときは馬の首をポンポンと叩き、「ありがとね」と挨拶。私の元に戻ってきた娘は興奮気味にこういった。

「たのしかった〜!」
「よかったね」
「あのね、大人になったらお寿司屋さんになるって言ってたでしょ?」
「?(寿司屋と馬に何の関係があるんじゃい)」
「お寿司屋さん辞める〜」
「?」
「馬、乗る人になる〜」

 ……心変わりが早いな、おい。ま、天才ジョッキーにでもなって稼いでくれ。

_dsc0041_

学園祭だったため、すべての馬に花をつけて「おめかし」していました。ちなみに全頭、オスだそうです(笑)。

| | コメント (4)

より以前の記事一覧